100円を稼ぐための経費は2万円超… 波紋の「赤字路線」はJR西日本だけの問題ではない

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JR西日本だけの問題ではない

 ここまでJR西日本は西への需要を掘り起こすことに躍起になっていたわけだが、私はかつてJR西日本の職員数人に山陽新幹線の需要掘り起こし策について聞いて回ったことがある。

 多くの職員はいろいろなアイデアを披歴してくれたが、最終的には「JR東海の協力がなければ成り立たない」という結論に帰結した。いくらJR西日本が魅力的な誘客キャンペーンを実施しても、「東海道新幹線が新大阪駅まで乗客をたくさん運んできてくれなければ、絵に描いた餅」というわけだ。

 国鉄時代も含めて、JR西日本は涙ぐましい取り組みを続ける。だが、事態はそうした思惑とは裏腹に進行している。バブル崩壊後、業務効率化やIT化が後押しして西日本にあった支店や営業所は次々に統廃合された。それら支店・営業所の統廃合により地域経済が落ち込んだことは言うまでもないが、くわえて出張族を当て込んだ宿泊業や飲食業にも影響が出ている。

 こうした現象は、山陽新幹線やJR西日本管内だけに限定されたものではない。全国各地で起きている。本来なら交通インフラが整備されたことで都市部から地方へと流れるはずだった人・モノ・カネが、大都市に吸い取られるように逆流する。これはストロー現象と呼ばれる。

 コロナ禍ではリモートワークが推奨され、地方都市でも仕事が可能になった。テレワークによる地方移住の促進といったトレンドも芽生えているが、地方都市の人口減少はそれ以上のスピードで進む。

 人口が減少すれば、必然的に鉄道利用者は減る。JR西日本が発表した17路線30区間だけではなく、今後は赤字路線・区間が拡大するだろう。そして、それは生命線ともいえる山陽新幹線にも重い負担となる。

 これは、JR西日本だけの問題に矮小化することはできない。いずれJR東日本や東海、そのほか東京・大阪を地盤にする大手私鉄も直面するだろう。実際、JR東日本も各線区の収支を公表する構えを見せている。

 コロナ禍は歳月とともに収束するが、人口減少は簡単に解決できる問題ではない。政府は旅行需要を喚起するべくGoToキャンペーンやワクワクイベントといったキャンペーンを打ち出す。それらは対症療法に過ぎず、危機に瀕する鉄道事業者を根本的には救えない。

 窮地に追い込まれる鉄道事業者と人口減少に立ち向かう長期的な視点が示せない政府。どう鉄道を維持していくのかの糸口がないままの模索が続く。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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