全日本女子柔道選手権 現役医学生「朝比奈沙羅」は準決で敗退 コロナ入院でスタミナ切れ

スポーツ

  • ブックマーク

「スポーツ選手は馬鹿」と思われたくない

 朝比奈は現役の医学生で、高いレベルでの「文武両道」を地でゆく才媛である。最近は、高校野球の名門高校が進学コースを設置して「うちは文武両道です」などと嘯くのを見かけるが、1人に備わっていなくては文武両道の意味がない(あくまで一つの価値観でしかないが)。勉強家で海外の友人も多い朝比奈は英語の能力も高く、2019年の世界選手権(東京)の記者会見では、外国人記者相手に流ちょうな英語で話していたのを見て驚いた。

 医学部入学を目指して柔道を1日2時間、勉強を10時間、という日も続いたそうだ。これだけのトップ級選手で「柔道漬け」でないのは珍しい。高校生の頃から「日本では、スポーツ選手は全然勉強もしない馬鹿、みたいに思われているのが嫌だった」とよく話していた朝比奈。最初、東海大学医学部を受験したが合格せずに泣いた。同大学の体育学部に進み、柔道をしながら猛勉強して一昨年の春、獨協医大に合格し現在3回生、医師になる勉強をしている。母は歯科医師。父・輝哉さんは順天堂大医学部助教。子供の頃から「母親は放任だった」そうだが、輝哉さんが「過保護」と言われるほど娘に関わったそうだ。

 試合後「人事を尽くして天命を待つ。世界選手権に選んでもらったら、朝比奈を選んで良かったと思ってもらえるように、10月まで準備したい」と話していた朝比奈。しかし、この日の選考会で世界選手権(10月、タシケント)の代表は冨田と決まり、朝比奈は混合団体戦の代表に回った。個人戦の落選で残念そうな朝比奈に挨拶に行くと「父がマネージャーなので」と輝哉さんを紹介された。

「病み上がり」もあった朝比奈は、盛んに「スタミナ不足」を口にした。素根に敗れて東京五輪を逃したのも基本的にはスタミナ負けだ。「学業を言い訳にしたくない」という朝比奈には、最大の課題を克服してパリ五輪の畳を目指してほしい。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件』(ワック)、『検察に、殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)、『アスベスト禍』(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。