「白人が被害者」の時だけ寄り添う日本人 シリア難民の受け入れは2年でたった13人(中川淳一郎)

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 ロシアとウクライナの戦争について、私は専門家ではないのでその是非については述べませんが、どうにもこうにも不思議なことがあります。西側諸国によるウクライナに対する寄り添い方と、過去の中東への寄り添い方、正反対じゃないか? と。

 シリア難民は2020年段階で約660万とされていますが、難民を受け入れたのはUNHCRのデータによると、近隣のトルコ・レバノン・ヨルダン・イラク・エジプトで約549万人の83.26%。欧米は94万567人で14.26%。日本は、17年から19年に11人を難民認定し、人道的配慮を理由に日本への在留を認められた人は同時期で13人。

 今回は、日本政府は4月2日に398人を受け入れ、その後政府専用機で20人を受け入れました。ウクライナ大使館への募金も大量に寄せられ、テレビにも支援者が登場します。全国各地の城やタワーはウクライナ国旗カラーにし、応援の意思を示しています。

 ツイッターでは、自分の名前の脇にウクライナ国旗を付けるムーブメントが発生。これまでキミたちウクライナのことなんて考えたことあったの? と言いたくなったのですが、まぁ、「私たちが今できることをやりましょう」みたいなことを考えたのでしょう。

 というわけで、西側諸国からすれば、今回の件は実に衝撃的だったのですが、在仏中国大使館の4月2日のツイートが興味深かったです。アメリカはイラク、アフガニスタン、リビア、パナマ、ソマリア、スーダン、シリア、湾岸、ユーゴスラビア、イエメンの戦争で600万人を殺したが、罰を受けていない、と批判しています。

 日本のメディアの報道スタイルも日本人のメンタリティーとしても、西側諸国が戦争に巻き込まれると、「支援せねば!」となるのですが、どうも中東やアフリカ、ロヒンギャ難民やミャンマーの軍事クーデターといった非白人の話になると若干冷たいんじゃないの? とも私は思います。「どっかの野蛮人が大暴れしているわ」的感覚ですが、日本人ジャーナリストが殺害されると途端に扱いが大きくなり、15年、ISISに殺害された後藤健二さんに対する哀悼の意を込め「I AM KENJI」のプラカードを駅前やネットで掲げる。

 01年の米同時多発テロの時も、日本人は悲しみにくれ、イスラム過激派許すまじ! という雰囲気になりました。あの時は、中東系の人を国内で見るだけで何らかのテロ行為をやらかすのでは? といった差別的空気感が漂い、モスクにも嫌がらせが相次ぎました。

 今回もロシア料理店への嫌がらせや、ロシア料理をベースとした料理を紹介した日本人YouTuberへの批判もありました。「このご時世にいかがなもんか」というのです。まさに坊主憎けりゃ状態に。

 現在、ウクライナから脱出したのは女性・子供・60歳以上の高齢者ですが、日本の匿名掲示板では「金髪碧眼の美女が来るのならば歓迎だ」といった声も多数書き込まれました。中東系の男性が大挙してやってくるのはイヤだが、白人の若い女性には来てほしい、というそこはかとないスケベさを感じてしまうのです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年4月22日号掲載

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