「生娘をシャブ漬けに」 史上まれに見る炎上発言の背景と防止策は

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「シャブ漬け」発言の元ネタは

 昭和の時代、青年男子にかなりの人気を誇ったマンガに「俺の空」(本宮ひろし)がある。財閥の御曹司、安田一平が、生涯の伴侶を探して放浪の旅に出て、各地で素敵な女性と交際したり、関係を持ったりするストーリーだ。

 その続編、「俺の空 刑事編」では、一平は社会正義実現のために刑事になっている。捜査していくうちに、大物政治家たちと暴力団が密接な関係にあることも見えてくる。暴力団を摘発しようとすると、捜査の現場に政治的な圧力がかかる始末だ。

 このようなことができるのも、暴力団側が政治家を取り込むためにあれこれ策を弄しているから。薬物漬けにした若い女性の肉体を提供する、というのもその一つだ。このやり方で彼らは女性を自由に操り、道具のように使う。

 当然、多くの読者は安田一平たちが悪党を叩き潰す様に喝采を送る。しかし、もしかすると暴力団側、政治家側にシンパシーを抱く人もいるのかもしれない。「若い女性を手に入れられていいなあ」と。

「地方から出てきた生娘をシャブ漬けに」発言で、近年まれにみるほどの炎上を招いてしまった吉野家の伊東正明常務取締役は、49歳というから昭和40年代生まれとなる。若い頃に「俺の空 刑事編」に触れて間違った読み方をしてしまったのだろうか。実はこの種の女性を薬物でうんぬんという設定は、主に男性が好むマンガや小説などではそう珍しいものではなかった。

 あるいは年代からすると、ラジオの深夜放送が今よりもはるかに「不謹慎」だったころに受験勉強に勤しんでいた可能性もあるだろう。現在でも深夜放送はある程度の自由さが認められているが、昭和の時代はそんなものではなかった。超ド級の下ネタ、差別ネタが普通に放送されていたのだ。そのノリで、際どい言葉をジョークとして使ってしまったのかもしれない。

 いずれにしても、同社は途方もない痛手を負うことになった。発言が飛び出した講座の名前が「デジタル時代のマーケティング総合講座」というのもこうなると一種のブラックジョークである。結局、伊東氏は吉野家から解任される羽目となった。

素人の毒舌は危険

 もちろん伊東氏はこの発言で、デジタル時代の炎上マーケティングを実践しようとしたのではなく、冗句のつもりだったのだろう。

 しかし、こうした発言への目が昔とは比べ物にならないほど厳しくなっているのは間違いない。

 コメンテーターを務めることも多い教育学者の齋藤孝氏は著書『余計な一言』で、経営者、政治家など立場のある人がやってしまいがちな失敗について解説をしている。(以下、引用は同書より)。

 そこで示した教訓の一つが「スピーチに余計な毒舌は無用」というものだ。

 たとえば結婚披露宴の上司のスピーチでのこんな毒舌。

「最初は線が細かった新郎の○○君もずいぶんたくましくなった……かといえば、そうでもない気もしますが、まあ結婚できて本当によかったと思っています。

 これで少しは仕事の面でも伸びてくれれば、と心から願っておりますが、さて、どうなることか」

 この場合、上司としてはちょっとした毒を入れて、面白くしようとしているのだが、往々にしてスベってしまいがちだ。こういう場では、新郎新婦を持ち上げておけば問題は起きない。上司の面白トークなんて誰も求めていないのだ。

 今回の吉野家のケースはこれに近いのかもしれない。

 齋藤氏はこう警告している。

「『話に毒を入れる』際には、少量で効き目のある毒を入れる必要があるのですが、実はこれはとても難しい技術なのです。

 この上司は、ビートたけしさん、松本人志さんや有吉弘行さんを真似ているつもりかもしれません。しかし、素人が彼らの真似をしてもよいことは決してありません」

 スレスレの線の毒舌を操るには熟練の技が必要。たとえ普段、同僚が笑ってくれていても、愛想笑いの可能性もある。

 素人が自己判断で「俺のギャグは天下一品」「トーク術で客を沸かせることができる」などと過信していると、大けがを負うことを今回の一件は教えてくれた。芸人に憧れるおじさんは特に注意したほうがいいだろう。

デイリー新潮編集部

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