この局面で「ウクライナも悪い」と言い出す著名人の心理 識者が思い出した“東欧諸国の惨状”
新自由主義の“反戦”
橋下氏の投稿に関しては、日本近現代史が専門の神戸市外国語大学総合文化コース准教授、山本昭宏氏の発言が興味深い。
朝日新聞は4月15日の朝刊に「(耕論)戦うべきか、否か 篠田英朗さん、想田和弘さん、山本昭宏さん」の記事を掲載した。
文中で山本氏は、ウクライナ侵攻に関する橋下氏のツイートに関し、以下のような問題点を指摘した。
《橋下徹さんがウクライナの徹底抗戦を批判しましたが、「国家より個人が大事」という新自由主義的な論理にみえます。反戦を新自由主義の言葉でしか語れない今の状況が、戦後民主主義の行き着いた果てなのかもしれません》
侵略戦争は悪
担当記者が言う。
「理解に苦しむのが、この状況でロシアを批判しないだけでなく、よりによって『ウクライナにも問題がある』と公の場で発言したことです。1939年、ドイツとスロバキア共和国、そして当時のソ連は、ポーランドに侵攻しました。今、振り返って『ドイツとソ連も悪いが、ポーランドにも問題がある』と発言する人は誰もいません」
一部の大手メディアは、陰謀論者がロシアを擁護しているという危険性を訴えている。だが、今起きている現象は、そんな複雑な問題ではない。かなりの著名人が堂々と、ウクライナを批判しているのだ。
ロシアを擁護する著名人は、鈴木、橋下の両氏にとどまらない。なぜ、こんな言論がまかり通っているのかと不思議に思っている人も少なくないだろう。
防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏は、東西冷戦下、国際関係論の研究を続けた。当然ながら、ソ連=ロシアの動向については今でも深い知見を持っている。
東大の南原総長
どういう理由から、ロシアを擁護し、ウクライナを批判する“言論人”が後を絶たないのか、取材を依頼した。
「私は昭和9(1934)年生まれで、昭和29(1954)年に東京大学教養学部に入学しました。当時、東大で国際関係論の授業を担当していたのは江口朴郎さん(1911~1989)でした。マルクス主義史学の重鎮とも言うべき教授で、私は大学院でも江口先生の授業を受講しました」
日本がサンフランシスコ講和条約を結んだのは1951年。その直前まで、アメリカを筆頭とする西側諸国とだけ「単独講和」を結ぶか、ソ連など東側諸国を含めた「全面講和」を選ぶか、国内では激しい議論が起きていた。
やはり政治学が専門で、当時の東大総長だった南原繁(1889~1974)は、ファシズムと共産主義を常に批判していが、講和に関しては「全面講和」を主張していた。
これに首相の吉田茂(1878~1967)が激怒し、「国際問題を知らぬ曲学阿世の徒、学者の空論に過ぎない」と痛烈に批判した。
「南原総長はマルクス主義を信奉していたわけではなく、むしろ学術的な立場は逆でした。とはいえ、南原総長の全面講和論を当時の日本が“左傾化”していた象徴と見る考えは、決して珍しいものではありません」(前出の記者)
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