ロシアの巡洋艦「モスクワ」が瞬く間に撃沈された理由 専門家は「窓と甲板」問題、足りない思想を指摘
ダメージ・コントロール
ところが、菊池氏が乗船したスラヴァ級巡洋艦では堂々と窓が使われていた。
「窓の件は、強く印象に残りました。『ひょっとすると船内にクーラーがないのかな?』と考えたこともありました」(同・菊池氏)
木造甲板については、1982年のフォークランド紛争で、イギリス海軍の駆逐艦「シェフィールド」が撃沈された際に注目されたという。
「アルゼンチン海軍がフランス製のミサイル『エグゾセ』を命中させ、『シェフィールド』で大火災が発生しました。甲板の一部が木製だったため、火勢に対して脆弱でした」(同・菊池氏)
貴重な“戦訓”として、各国の海軍は「脱・木製甲板」を進めた。しかし菊池氏は、木造甲板を実際に目の当たりにした。少なくとも当時のロシア海軍は、危機意識が低かったと見る。
「1990年代から2000年代にかけて、ロシア海軍は予算不足に苦しみながらも、スラヴァ級ミサイル巡洋艦で“近代化”を行ったと報道されています。ひょっとすると、窓や木製甲板は改修したのかもしれません。とはいえ、ロシア海軍にはダメージ・コントロールの思想が足りなかったように思えます。そのため、撃沈された『モスクワ』には脆弱性が存在していたのではないでしょうか」(同・菊池氏)
「モスクワ」は老朽船?
軍艦が戦闘で被害を受けるのは、ある意味で当然だろう。しかしながら、できるだけ被害を少なくするための「ダメージ・コントロール」は不可欠だ。
もし敵のミサイルに被弾して火災が発生したとしても、それを最小限に抑える消火設備は絶対に必要だ。魚雷が命中したとしても、浸水を迅速に防ぐ設計になっていなければならない。
そもそも第二次世界大戦で被害を受けた旧ソ連海軍の軍艦は少なかった。陸上の戦争が主体で、大規模な海戦は行われなかったからだ。
「それは戦後、老朽化した軍艦を使い続ける必要があったということを意味します。艦が生き残ったのは、軍事費から考えれば歓迎すべきことです。しかし、ロシア海軍が最新技術を設計に取り入れる機会を失ったとも言えます。実際、ダメージ・コントロールの概念がロシア海軍に欠落していたのは、私が90年代に乗船したスラヴァ級ミサイル巡洋艦の杜撰な状態から見て明らかです」(同・菊池氏)
巡洋艦「モスクワ」の就役期間は40年かもしれないが、それは「40年前の最新技術を設計に反映させた軍艦」を意味するわけではない。
独裁国の真実
「もっと遅れた建艦思想をベースに設計された可能性は充分にあります。就役当時の時点で、“最新鋭”の戦艦ではなかったかもしれないのです。更に、ソ連が崩壊してからロシア海軍は、軍事費の捻出に苦労しました。『モスクワ』でも、ミサイルから艦を防御する対空レーダーや火災発生時の消火設備といったものに、どれほどの最新技術が反映されていたかは未知数です」(同・菊池氏)
ロシアのメディアが「モスクワ」について、《現実は絶望的なほど老朽化》していたと報じたのは、もちろん負け惜しみだろう。
だが、独裁者が君臨する国には珍しく、意外にも“真実”を報じていたのかもしれない。
[3/3ページ]