テレ朝「未来への10カウント」は、50歳を目前に控えたキムタク向きの作品と言える理由

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ありがち、だがそれでいい。

 ストーリーの肉付けはかなりベタだ。ボクシング部を潰そうと目論む校長の大場麻琴(内田有紀)が、実は芦屋前監督の娘で、祥吾の在校中の同部マネージャーだったり、部の顧問になった古文教師・折原葵(満島ひかり)がボクシングの知識ゼロだったり。ありがちな設定である。

 思わず言いたくなる。「あー、校長はかつて愛したボクシング部を潰せっこないし、折原先生はみるみるうちにボクシングが大好きになるんだろうなぁ」と。

 学校側が特定の部を目の敵にしているところなどを含め、1972年に日本テレビが放送した「飛び出せ!青春」(日本テレビ)などの学園ドラマシリーズを彷彿させる。ある種、クラシカルだ。

 だが、それでいいと思う。いろいろなドラマがあるべきであり、分かりやすく観て元気が出るようなドラマも必要だ。考察ドラマや芸術的ドラマ、ラブコメばかりが求められている訳ではない。

 このドラマの総指揮官であるチーフプロデューサーの黒田徹也氏と脚本を書く福田靖氏はアラ還。「ロッキー」「あしたのジョー」、そして学園ドラマを見て育った世代だ。これらの作品を意識して企画を立てたのではないか。

 黒田氏は元ドラマ制作部長のベテランで、「DOCTORS 最強の名医」(2011年)などで福田靖氏と組んだ。関係が深い。そして福田氏はキムタクが主演したフジ「HERO」(2001年など)などを書いている。キムタクを受け入れる環境が整っていた。

 ボクシング通に言わせると、キムタクのリング上の動きは上々なのだそうだ。足の動きはさすがにボクサーに遥かおよばないが、上半身の動きは俊敏だという。確かに、海斗とのスパーリングで見せたパンチは早かった。相当、トレーニングを積んだのだろう。

 柄本明、安田顕、内田有紀、満島ひかりらはいつも通りに演技巧者ぶりを発揮している。盤石。特にシリアスもコメディも軽やかにこなせてしまう満島はその長所が存分に生かされている。

 気になった点もある。満島演じる折原が祥吾に仕事を尋ね、「ピザのデリバリー」という答えを引き出した。すると「ピザ屋さんの店長さん、社長さん?」と畳みかけ、祥吾がバイトと返答すると、「バイト!」と驚き、口に手を当てた。

 柄本演じる芦屋も祥吾から仕事を聞き、ピザの配達のバイトと知ると、「ピザ!」と素っ頓狂な声を上げた。

 いろいろなドラマがあるべきだと思うが、時代を後退させてしまうようなシーンはなくすべきではないか。言葉狩りや表現の自由を狭めることに賛成している訳では決してない。現実の世界でも正業についてとやかく言うことは許されないということである。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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