戦争で存在感を高める仮想通貨 ウクライナとロシアで意外な明暗

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「ロシアのウクライナ侵攻を機に世界経済の分断化が進む」との見方が広がる中で、仮想通貨に対する関心がにわかに高まりつつある。

 国際通貨基金(IMF)は3月下旬「ロシアに対する経済制裁は米ドルの支配的立場を徐々に弱める恐れがある。世界金融システムの分断が進み、仮想通貨などのデジタル金融が普及する可能性がある」との見解を示した。

 ウォール街でも仮想通貨に対する評価が変わりつつある。

 資産運用世界最大手のブラックロックのラリー・フィンクCEOは、価格が乱高下しやすい暗号通貨にこれまで懐疑的だったが、「ウクライナ危機が従来型の通貨に依存している現状を見直すきっかけとなる。国際取引の決済手段としてデジタル通貨の普及が加速する可能性がある」と考えを改めた。この紛争が冷戦終結以来続いてきた秩序を根底から覆し、グローバリゼーションの終わりを告げる出来事になると認識したからだ。

 フィンク氏は「グローバルなデジタル決済システムは適切に設計されれば、マネーロンダリングや汚職のリスクを減らしつつ、国をまたぐ取引の決済を強化することができる」としているが、現在の仮想通貨には課題が多い。

ロシア富裕層の「資金洗浄」

 悪名高いのは暗号通貨による資金洗浄(マネーロンダリング)だ。その額は昨年、86億ドルに上った(前年比30%増)とする分析結果がある。

 ロシアへ経済制裁を科している西側諸国は、ロシア富裕層による仮想通貨を使った資金移動に警戒を強めている。日本政府も仮想通貨が制裁の抜け穴になるのを防ぐ目的で、通常国会に外為法改正案(仮想通貨の交換業者に制裁対象者への送金ではないか確認する義務を課す)を提出する予定だ。

 ロシアの富裕層が仮想通貨を使い、ウクライナ侵攻で科された制裁を回避して自らの資産を安全な場所に移す動きを強めているとの憶測がその背景にある。最も有力な移転先候補として浮上しているのがアラブ首長国連邦(UAE)のドバイだとされている(3月11日付ロイター)。

 UAEの金融関係者によれば、西側諸国によって自らの資産が凍結されることを恐れるロシア人たちが、仮想通貨を使ってドバイで不動産を購入している。

 ドバイは観光地として以前からロシア人に人気があり、不動産購入でもロシア人の存在感は大きかった。ドバイは湾岸地域の金融・ビジネスの中心地でもある。

 UAEは長年にわたりロシアとの関係を深めてきた経緯があり、西側諸国による制裁措置に同調せず、中央銀行も制裁に関する指針を発表していない。

 UAEは最近、不動産などの分野の取引が問題視され、国際組織「金融活動作業部会(FATF)」から「グレーリスト国」に指定されており、マネーロンダリング(資金洗浄)など金融犯罪を巡り監視強化の対象となっている。

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