「政治家こそミサイルが飛んでいる時に行け」 橋下徹氏の主張に見え隠れする傲慢さ
ジョンソン首相への嫌味
ロシアのウクライナ侵攻に関連して、現地の深刻な状況とは別に注目を集めているのが橋下徹元大阪市長の発言である。
そもそも橋下氏は日々の発信量がケタ違いに多い。毎日のようにどこかのワイドショーやニュースにコメンテーターとして出演し、さらに合間を縫ってツイートも頻繁に発している。
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侵攻直後から、ともすればロシア側に立っているかのように受け止められる発言、ツイートが目立ったため、各方面から批判をされることが多かった。さらにそうした批判に対して、持ち味でもある喧嘩スピリットで反論して、さらにそれが批判され……ということがこのところ、主にネット上で繰り返されているのである。
直近では、イギリスのジョンソン首相のキーウ訪問についてのコメントが話題を呼んだ。コメントの概要は以下の通りである(フジテレビ系「イット」4月11日)
・ジョンソン首相に続いて欧州の首脳はこのあと訪問するのだろう
・自分(橋下氏)は性格が悪いからうがった見方をしてしまうが、だいぶ安全になってからキーウを訪問しているように思える
・もちろん政治家も自分の命が大切なんだから、安全かどうかを見て行くのは当然だろう
・しかしそれならば、一般市民の命についても同じくらいの感覚で考えるべきだ
・「一般市民の犠牲やむなし。ロシアを倒すのが国際秩序を守るために大切だ」という考え方、感覚はおかしい
・政治家には「一番ミサイルが飛んでいる時に行きなさいよ」と言いたい
橋下氏が言いたいのは「自分の命が大切なのと同じ感覚で一般市民の命についても考えよ」ということなのだろう。だからといって「一番ミサイルが飛んでいる時に行きなさいよ」というのは、橋下氏らしい乱暴な表現ではある。
「政治家こそ戦地に行け」という古典的な物言い
ただし、安全保障に関する議論において、「まず政治家こそが戦地に行け」といった論理を用いる人は珍しくない。
「自分が戦地に行くことを想像すれば、戦争をしようなんて気持ちにはならないはずだ」といった考えがそこにはあるのだろうか。
社会問題に目覚めた頃の若者は、こういうことを口にしがちかもしれない。
「まずはお前が前線に行け」式の論法は日本国内においても、安全保障について議論される際に、常に持ち出される論理である。
「自衛隊員を危険な目に遭わせるというのなら、まずあなたが自衛隊に入ってはどうですか。その覚悟がないのに他人にやらせるのですか」
こうした問題提起に対して、政治家の側はどう答えるのか。
元防衛大臣で、政界きっての防衛通で知られる石破茂元自民党幹事長の著書『日本人のための「集団的自衛権」入門』には、これに対する一つの解答が示されている。
当時、石破氏が直面していたのは、「日本が集団的自衛権の行使を認めたら自衛隊の危険が増すのではないか。自衛隊員が死んだらどうしてくれるんですか?」「まずはお前、あるいはお前の子供を自衛隊に入れてからものを言え」といった声である。「そんな危険な目に自衛隊員をあわせるのはおかしい」という主張だと言ってもいい。
その問いにどう答えたか。以下、同書より引用してみよう。
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自衛官は
「事に臨(のぞ)んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に努め、もつて国民の負託にこたえる」
という誓いを立てたうえで入隊しているのです。そういう覚悟が必要な危険な仕事に、使命感と誇りをもって日々任務を遂行しているのです。ですから、外部の人が「自衛隊が危なくなるから(集団的自衛権は)駄目だ」と言い募(つの)るのには違和感があります。
世の中には、自衛官に限らず、身の危険を覚悟して誇りを持って働いてくださっている仕事はたくさんあります。警察官や消防官、海上保安官もそうですし、災害や事故現場でのさまざまな仕事もそうです。
「危険だから駄目」と安易にいうことは、こうした方々に対して失礼な言動ではないでしょうか。
こういう物言いをする人は、「自衛隊が普段は安全な仕事をしている」という根本的な勘違いをしているようにも見えます。別にPKOやイラクに行く隊員だけが危険な任務に就いているわけではありません。
災害救助や訓練で命を落とす隊員も少なくないのです。警察予備隊から含めると殉職者数は1800を超えています。大変悲しいことですが、毎年何人かは必ず殉職しているのです。そのことはもっと知っておいていただきたいことです。
イラクのサマーワに自衛隊を出すかどうか議論がなされていた時に、「そんなことをして犠牲者が出たらどうするのか」と言う人がいました。幸い、犠牲者を出さずに済みましたが、あのとき「どうするのか」と言っていた方々は、同じ時期に訓練で殉職した隊員がいることをご存知なのでしょうか。
そのサマーワへの派遣にしても、陸上部隊については本人が拒否すれば行かなくてもいいようになっていました。それでも志願者のほうが多くて、そこから選抜するのが大変だというくらいでした。
この「危険な仕事だから」うんぬんという話で思い出すのは、代議士になって間もない当選2回目の頃、看護師(当時は看護婦と呼ばれていました)さんたちと話したときのことです。
その頃、彼女たちの仕事の3K(キツイ、キタナイ、キケン)が問題になっていました。そのせいでなり手がいないことが社会問題になっていたのです。
その時、自民党で彼女たちをお招きして、いろいろヒアリングや意見交換をする機会を持ちました。その場で、
「みなさんの仕事は本当に大変ですね。きついし、危険ですし……」
とこちらが話を始めたら、ある若い看護師さんが烈火のごとく怒ってこう言いました。
「あなた方がそういうことを言うから、駄目なんです。あなた方外部の人が、きついとか危険だとか言うからなり手が減るんです。私たちはそれを承知でこの仕事をしているんです」
自衛官の多くも、これと似たような気持ちではないでしょうか。イラクに派遣する際に、防衛庁長官だった私のもとに、ある幹部自衛官が面会を求めて来ました。彼はこう言いました。
「長官、もしも我々の中から犠牲が出ても、派遣を止めないでください。仮に殉職者が出たことで、オペレーションを止めるくらいならば、そもそも行かせないでください。我々はそういう覚悟で行くのですから」
だから危ない目に遭わせていい、というのでは断じてありません。できる限りの装備、権限を与えて、できる限り安全に任務を遂行してもらうように、私たちは最大限の努力をしていますし、努力し続けます。それは政府の責務です。しかし、だからといって「絶対に安全」ということにはならないでしょう。
多くの国民が高く評価している災害救助でも、犠牲者が出る可能性はあります。東日本大震災においても、直接救助活動での死者は出ていませんが、過労死した隊員はいます。少し前に、キャスターの方の海難救助をしていましたが、あれもかなり命がけの仕事でした。
(略)
いずれにせよ、この手の質問は議論のためというよりは、ご自身の意見を言うためのものなのでしょう。
「お前が隊員になれ」「まず、あなたの子供を自衛隊に入れろ」といった意見も時おり耳にしますが、自衛官は嫌々この仕事を選んだのではなく、自らの意思で、誇りを持って選んだのです。私も子供が入りたいといえば、止めませんし、嫌ならば行かせないというだけのことです。
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上から目線という批判
上の論理を用いて、橋下氏の「ジョンソン首相はミサイルが飛んでいる時に行け」という意見に答えると次のようになるだろう。
「ウクライナで戦っている多くの人は、自らの意思で、誇りを持って現地に残り、戦っているのです。決して西側諸国に操られたり、踊らされたりしているわけではありません。
ジョンソン首相は、英国民への責任も感じながら、ベストと思えるタイミングでキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領に感謝されています。勝手にあなたの気分で、他国の首相に危険な目に遭えというのは、ウクライナ国民やイギリス国民を馬鹿にした話ではないでしょうか」
なお、在日ウクライナ人のナゼレンコ・アンドリー氏はツイッターで以下の様に今回の橋下氏のコメントを評している。
「実際にミサイル攻撃を体験したウクライナのおじさん:ボリス、来てくれて本当に嬉しい!孫の代まで英国への感謝を忘れない!
現地に来たことない人(上から目線):なに安全な時に来るんだよ、ミサイル飛ぶ時に来いよ
人格の差かどうか知らないが、現地の人の気持ちを全く理解していないことは確か」(4月12日)
この「上から目線の人」が指すのは橋下氏だろう。少なくともウクライナ人であるナザレンコ氏は、橋下氏の主張にはくみせず、ジョンソン首相の訪問に感謝の念を抱いているようだ。
橋下氏を巡る戦いも当分終わりそうにない。