部品の受発注を最適化して製造業を変える――加藤勇志郎(キャディ代表取締役)【佐藤優の頂上対決】

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 大手メーカーから発注された部品の図面データをコンピューターで自動解析、瞬時に原価計算して最適な町工場とマッチングするキャディ。これによって発注元は煩雑な調達作業から解放され、町工場は得意分野の仕事が安定的に供給されるという。果たして「モノづくり大国ニッポン」復活の日は来るか。

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佐藤 加藤さんは、日本のモノづくりを支える町工場と、発注するメーカーとをマッチングさせるプラットフォームを開発して、大きな注目を集めています。その経歴は非常にユニークで、開成中・高時代には、プロのミュージシャンを目指されていたそうですね。

加藤 もともとバンドを中学1年から始めまして、高校に入るくらいからソロになり、ライブハウスでアコースティックギターを持って歌っていました。CDも出しています。当時は大学へは行かずに、プロになろうと思っていました。

佐藤 確かに開成は、詰め込み教育でなく自由な校風ですが、大学に進学しない生徒はほとんどいないでしょう。

加藤 はい。だから高校3年になり、5月の運動会が終わった頃、母親から「大学だけは行ってくれ」と泣きつかれたんですね。それでいったん音楽活動は休止して受験することにしたんです。

佐藤 開成の運動会は、中高6学年を縦割りにしてチームを作り、競い合うことで有名ですね。生徒たちが自主運営で行い、それが終わると3年生は本格的な受験勉強に入る。

加藤 ただそれまでまったく勉強をしてこなかったので、成績はかなり悪かったんです。だからそれから1日18時間くらい勉強して、何とか東京大学文科II類に合格しました。

佐藤 開成に入るような生徒は、生まれながらに二つの能力が秀でていると思います。一つは記憶力、そしてもう一つは情報処理能力です。普通なら勉強をやっていなければドロップアウトしていきますが、半年から10カ月くらい馬力をかければ、大学入試に通ってしまう。

加藤 まあ、でも相当に大変でしたけども。

佐藤 “短距離走”でさまざまな勉強をするには、全体を見渡して総合戦略を立てなければなりません。その能力は、コンサルティングや起業にも大きく関係してくると思います。

加藤 それはそうですね。

佐藤 文科II類は経済学部です。どうして経済を選ばれたのですか。

加藤 どちらかというと理科系だったのですが、私は医者にもサイエンティストにもなりたくなかった。また文学も好きではないし、弁護士も面白そうには見えなかったんですね。それで消去法で経済が残った感じです。また大学で音楽をやるとなったら、自分でマネジメントできなければと考えたこともあります。

佐藤 大学でも音楽を続けたのですか。

加藤 大学受験を頑張りすぎて頭がまひしたのか、入学後にギターを弾いても音楽に心が躍らなくなってしまった(笑)。それでスッパリやめました。

佐藤 学部では何を専攻されたのですか。

加藤 経営学科で金融のゼミです。もっとも大学もほとんど行っていなくて、自信を持って「勉強した」と言えるほどではないですね。

佐藤 では何をされていたのですか。

加藤 部活のアイスホッケーを一所懸命にやり、いくつか事業も立ち上げて運営していました。

佐藤 すでに学生時代に起業されていたのですね。

加藤 例えば薬の治験関連で、人集めに悩む医療機関向けに人材紹介やコンサルティングをしていました。でも基本的に学生ができることって、二つしかないんです。一つは人材系で、学生バイトやインターンの斡旋、就職支援などです。もう一つはウェブ上で完結する事業で、SNS関係の事業なら学生でもさまざまに展開することができます。でも私はそれにワクワクしなくなったんですね。

佐藤 もっとインパクトのあることをやりたくなった。

加藤 ちょっと便利になりましたとか、何かをするのが楽になりましたという仕事を作り出すのも重要なことですが、どうせやるなら、より大きな市場で、ディープな課題があり、グローバルに共通性があって、それが解決されると人々がハッピーになるようなことに自分の人生を使いたいと思ったんです。

佐藤 この社会の大きな課題に取り組んでいくということですね。

加藤 そうなのですが、結果的にそうなるのであって、私自身は社会問題にすごく興味があるわけではないんですよ。何かをゼロから生み出して人々にハッピーになってもらうのが楽しい。だから社会起業家という人たちとは、ちょっと毛色が違うのではないかと思っています。

佐藤 それでまずコンサルティング会社のマッキンゼーに入られた。

加藤 私が取り組むべき課題を発見するには、グローバルかつ、さまざまな業界、産業の深い課題がわかる会社に入る必要があって、それならコンサルティング会社ですよね。中でもマッキンゼーはグローバルに展開していますから、そこなら何かを見つけられると思いました。

佐藤 マッキンゼーからは、DeNAの南場智子さんをはじめとして、多数の起業家が輩出しています。どのような仕事をされていたのですか。

加藤 基本的にはコストの削減をサポートすることですね。大企業に行って、工場にも常駐しながら、そこが買っている何百、何千という部品のコストを下げるための調達支援をやっていました。

佐藤 製造業を担当されたのですね。

加藤 ええ。部品の購入費はだいたい売り上げの6割くらいにあたり、非常に割合が大きい。それをどう最適化するかは経営課題となります。ただ、コストを下げようとすると、どうしても下請け構造になっている町工場に皺寄せがいってしまう。

佐藤 関係が対等ではありませんからね。

加藤 その通りです。でも中国の台頭もあり、世界と戦っている日本の企業は、コスト削減が至上命令です。だから両サイドがハッピーになる仕組みを作れないだろうかと思った。

佐藤 自身がやるべき課題を見つけたわけですね。

加藤 はい。この問題を解決するために、会社を立ち上げました。

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