柔道 全柔連が「小学生の全国大会」廃止 “行き過ぎた勝利至上主義”は好ましくないというが
嘉納師範が掲げた「本当の目的」とは
この決定を「英断だ」とする識者のコメントや発言が賛美され、スポーツ界に新たな一石を投じたという反響も広がっている。おかしな現象だと私は首を傾げている。小学生年代で全国大会が必要か? 加熱しすぎではないか? という議論には私も賛同する。だが、交通網が発達し、ジュニアの強化意識も高まっている時代の中で、小学生の全国的な交流を「悪」とするだけの姿勢はあまりにも短絡的だし、無責任だ。
小学生大会に出場していた選手の大半は、いわゆる町の道場で柔道に親しむ子どもたちだ。歴代の優勝者の一覧を眺めてみると、意外なほど、優勝者の所属先はバラついている。どこか特定の道場やチームだけが毎年上位を争っているのかと想像したが違った。全国の幅広いチームから優勝者が出ている。各地の道場が希望を持って取り組み、この大会を目指して稽古する様子が目に浮かぶ。これをただ廃止するのでなく、小学生やその指導者たちが何を指針に取り組めばいいのか。子どもたちをどんな魅力で道場に招き入れるのか? オリンピックで金メダルを獲った選手の栄光のドラマや、タレント的にテレビで脚光を浴びる姿がモチベーションを促す手だとすれば、それは勝利至上主義と商業主義の成れの果て以外の何ものでもない。
底辺を支える熱心な指導者たちがいま全国大会という目標を失えば新たな入門者獲得も難しくなるだろう。新たな目標や方向性を全柔連はどう示していくのか。中学生、高校生、大学生の勝利至上主義は今後も推進されるのか?
全柔連のホームページには、各都道府県連盟会長に宛てた、山下泰裕会長名の通達書が載っている。日付は3月14日だ。この文書の中にこう綴られている。
『嘉納師範は「勝負は興味のあるものであるから、修行者を誘う手段として用うべきであるが、本当の目的に到達することが主眼でなければならぬ」と述べておられます。また、「将来大いに伸びようと思うものは、目前の勝ち負けに重きをおいてはならぬ」ともされています。
本年2022年は、嘉納師範が「精力善用、自他共栄」を骨子とする講道館文化会の綱領を発表されてから丁度100年の節目の年に当たります。この際原点に立ち返るため、思い切って当該大会を廃止することにしたものであります。』
この文章には説得力がある。素晴らしい指針だと思う。だが、嘉納師範が掲げた「本当の目的」とは何なのか? それは結局、オリンピックの金メダル獲得という意味なのか? もし本気でここに書かれた指針を徹底し原点に立ち返るのなら、中学生も高校生も大学生も社会人も、競技の位置づけを問い直し、「本当の目的」を見つめ直すよう呼びかけるのが筋ではないか。小学生だけが全国大会を取り上げられて、柔道界は原点に戻れるはずがない。これは嘉納哲学と合致する選択なのだろうか。
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