学校になじめなかった女優・内田紅甘 限界を迎えた18歳の彼女を救った出会いとは
“戦友”との再会
ともあれ4年前、私は高校を卒業し、そんな苦痛の日々とはおさらばになった。それなのに、その日を境に私はさらなる暗闇へみるみる沈み込んでいく。なにも見えない、自分がどこにいるのかもわからない、少しでも気を抜いたらまっさかさまに落ちてゆくのではないかという、得体のしれない不安のなかにひとり取り残されてしまった。それはきっと、学校に行くことを自分の価値にしていたからだ。学校はたしかに地獄だったけれど、その地獄とのつながりに私は生かされていたのである。それが途切れてしまったら、私にはなにも残っていなかった。
ある友人から久々に会おうと連絡がきたのは、そんな心で迎えた夏のある日だった。彼女は私にとって戦友のような存在で、在学中、よくふたりそろってトイレの個室にこもっていた。チャイムを合図にドアを開け「あんただったか」と顔を合わせて、鏡の前にふたりで並ぶ、それだけでなんだか勇気付けられたものだ。そんな彼女は卒業後ペットショップに就職し、断然犬派の彼女が唯一かわいがってる猫がいるというので、写真を見せてもらった。
「トンキニーズだから、店ではトンって呼んでるの」
あのときショーケースのなかにいたトンは今、わが家のリビングをゆうゆうと歩いている。トンがじいっと私を見たり、文句ありげにナァと鳴く、その意味はちっともわからないけれど、ただトンはトンなんだなぁと私は思う。何ができてもできなくても、誰がなんと言おうとも、トンはいる。まったく勝手に生きているその姿が、私は私でいいのだと、今日も思い出させてくれる。
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