子どものマスク、ワクチン接種を推奨せず… 「コロナ終結宣言」スウェーデンに学ぶ教訓

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トリアージは姥捨山か?

 感染拡大の初期に高齢者を中心に死亡者数が増加したことで、同国のコロナ対策は「失敗」だと外国から批判された。たしかに感染者や死者がピークとなった第1波、第2波では、スウェーデンの医療現場は崩壊寸前まで逼迫していたといえる。

 スウェーデンの死亡者が増加した時、医療現場での「トリアージ」(治療対象者の優先順位決定)が外国メディアから問題視された。予後(余命)の短い高齢の感染者を急性期病院に搬送しないという事例が、“高齢者を切り捨てる姥捨山のようだ”と揶揄されたのだ。しかし、こういったトリアージはスウェーデンでは通常時から行われており、コロナ禍に特別なものではない。

 急性期病院に搬送された後も、ICU(集中治療室)入室の判断をめぐるトリアージがある。スウェーデンで最も多くの入院感染者を治療したカロリンスカ大学病院では、ピーク時で450名近い感染者が入院していた。ベッド数が1600床程度の病院なので、入院患者の4分の1程度が感染者だ。うち130名近くがICUに入院していた。ICU入室判断の基準は社会庁の指針をベースとして作成された。入院を要する感染者の急増に対応するために、通常病棟は次々とコロナ病棟となり、それに伴って通常診療を縮小し、各診療科の医師が感染治療医や救急医の助言のもと、コロナ診療に従事した。救急外来やICU勤務者には210%の給与をインセンティブとして人員を確保した。

介護施設では何が起こっていたのか

 スウェーデンには病院が100程度しか存在しないが、そのほとんどが公立であり、多くの病院が何らかの形で感染者の治療を行った。第1波では、通常診療の一部を、コロナ診療を行っていない病院へ委託することで、通常診療の遅滞を少なくする努力がなされた。救急搬送する病院は決められているため、たらい回しは発生せず、地方自治体の境を越えた患者搬送もなされた。

 多くの犠牲者を出した介護施設は、もともと予後の短い高齢者が入居していることもあり、原則として急性期病院での治療の対象とはならないとされていた。ただし、予後には原疾患により幅があるため、急性期病院に搬送するかどうかは、最終的には医師が判断しなければならない。しかし第1波では、介護施設における医療資源の不足が原因で医師の診察が十分に行われなかった。死者の中には病院に搬送すれば救命できたかもしれない、予後が比較的短くない高齢者がいたことも事実のようである。

治療の優先順位をつけるのが日常

 スウェーデンにおける初期の死者の増加は、介護施設における医療資源の不足という、同国の「潜在的な医療・介護システムの欠陥」が顕在化した結果であり、トリアージに問題があったわけではないと考えられている。多くの病床があるにもかかわらず、その大半が民間病院であるために必要なコロナ病床の確保に失敗した日本と同様に、コロナ禍が各国の社会システムの弱点をあらわにしたといえるのではないだろうか。

 スウェーデンの医療現場では、トリアージ的思考、つまりメリットとデメリットのバランスを考慮して、診断や治療行為における優先順位をつけ、意思決定することが日常である。限られた医療資源で、平等かつ効率的な医療を提供するためには、合理的な思考で無駄を削減しなければならないからである。そのため、普段から「助けることのできる命」に医療資源を集中的に投入することが徹底されている。先に挙げたICUを例にとれば、予後が6カ月程度以上見込めない患者は、原則としてICUには入室できない。これは若い患者も例外ではない。

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