超高級ワインでウクライナを激怒させたプーチン ワインセラーの移動には「黄金バギー」

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 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年勤め、昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、プーチン・ロシア大統領の“ワイン好き“について聞いた。

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 あまり知られていないが、プーチンはかなりのワイン好きだ。政界を引退したら、ワイン醸造業界にたずさわりたいと語ったこともあり、ワイン造りに興味を持っているようだ。

 ウクライナとルーマニアに挟まれた小国、モルドバには、「クリコバ」という国営のワインセラーがある。世界中の要人をもてなす「大統領ホール」と呼ばれる豪華な試飲室が5つあって、ドイツのメルケル首相やアメリカのバイデン大統領も訪れた。

 プーチンは、クリコバに自身のワインコレクションを持っている。そのワイン貯蔵庫で誕生会を開いたこともあったという。

 クリコバは、15世紀に掘られた地下76メートルにあった坑道をワイン貯蔵室に作り替えたものだ。迷路のような地下トンネルは約120キロにも及び、葡萄の種類によって「ソーヴィニヨン通り」、「カベルネ通り」などと命名されている。広大な施設のため移動は車を使う。プーチンが来ると、黄金製のバギーが用意されるという。

「へレス・デ・ラ・フロンテーラ1775」

「プーチンは2015年9月、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ元首相とともに前年に併合したクリミアを訪問した際、有名なマサンドラワイナリーを訪れています」

 と語るのは、勝丸氏。かつて公安部外事1課に所属でロシアを担当していた同氏は、プーチンについて詳しい。

「その時、プーチンはマサンドラで最も古い240年前のワインを開封させ、その場で飲み干してしまったんです」

 このワインは、1775年にスペイン南部の「へレス・デ・ラ・フロンテーラ」で生産された。マサンドラワイナリーの創設者で19世紀にコーカサス総督を務めたミハイル・ボロンツォフ伯爵の収集品だった。

「価格は10万ドル以上(約1200万円)で、ウクライナで国宝ワインと言われていました。ウクライナ政府はプーチンが勝手にこのワインを開封したことに激怒。大問題になった。検察当局は、プーチンとベルルスコーニが国の財産を奪取したとして捜査を行いました」

 検察のナザール・コロドニッキー氏は、AFP(フランス通信社)の取材に対し、こう語っている。

「そのワインはクリミアやマサンドラにとどまらず、ウクライナ国民全体の財産だ」

 勝丸氏が続ける。

「当時ロシアは、クリミアを軍事的に制圧して併合し、マサンドラワイナリーも接収していますので、ウクライナ当局はさすがにプーチンを裁くことはできなかった。もっとも、ベルルスコーニ氏を3年間の入国禁止処分にしています」

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