「金魚妻」は駄作? 知恵も主体性もない女性ばかりの「性欲マンション」

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 関西人が無責任に言い放つときにつける、特有の語尾「知らんけど」。関西人ではないが、今回の原稿で使わせてもらおう。

 今までにNetflixのドラマを数本原稿に書いた。いずれもイッキ見してしまう面白さで大絶賛、下手すりゃ提灯持ち原稿だった。「ネトフリにハズレなし」と書きたいところだが、1話で視聴を断念する作品も多い。「こちとら金払っとんじゃ」と心の修羅が暴れ出すのは、Netflixジャパンの女性向けの作品に多い。「フォロワーズ」とかな。知らんけど。

 今回俎上に載せる「金魚妻」もそうだった。安藤政信と長谷川京子のタワマン最上階濡れ場に始まり、タワマン在住のいかにもな女たちが一堂に集まり、主要人物紹介よろしくパーティーに参加。主役は篠原涼子。元美容師でセレブ妻、夫の安藤は初回から浮気・暴力・暴言の三拍子。近所の若き金魚屋(TBSの「砂の塔」でもタワマン住民と縁のある役だった岩田剛典)に救いを求めて……。

 心の修羅がそっと画面を閉じさせた。私だけではない。友人も「数分でやめた」と言う(それだと安藤の尻しか観ていないのでは?)。

 ただ、Netflixジャパンの巨額の脱税というか申告漏れも発覚したことだし、せっかくだからチョイとツッコミを入れておこう。配信直後は日本の視聴総合トップ10に入っていたが、ほんの一瞬。今はわざわざ検索しないと出てこない……。

 原稿に書くと決めたら最後まで。続きを観たのだが、なにこれ? 「性欲マンション」じゃん。知らんけど。

 セックスは人生において重要だと思うし、女の業と欲は肯定したい。したいが、出てくる女性がみなアホに見える。知恵と主体性のない女。タワマンの住人が観たら怒りそうな内容だ(そもそも興味ないだろうよ)。

 原作が気になって読んでみたら、一話完結で設定や人物は実に多彩。状況設定や心情描写も丁寧で緻密。業と欲の肯定も感じたし、そもそもタワマンではない。ドラマはタワマン限定、性欲をこれでもかと詰め込んだ挙句、濡れ場にのみ心血注いでおる。知らんけど。

 この手の作品でいつも気になるのは、乳首を出す女優と出さない女優の差。売れるという説得や強要が背景になければいいが。「全裸監督」の森田望智を引き合いに出していなければいいが。川崎珠莉、お疲れ様。

 篠原は離婚のために、岩田の周囲(元カノで弁護士の水上京香など)まで巻き込んだ挙句、夫を許す。悪い男が罰せられないモヤモヤ。妹の命の恩人だとかいろいろあるにせよ、成金の夫婦喧嘩に巻き込まれた金魚屋が不憫すぎる。知らんけど。

 と書きながらも、実は第5話で目をかっぴらいたことを告白しておく。タワマン在住の潔癖頭痛妻・松本若菜と、くたびれた眞島秀和が出会い、アパートの一室で交わる。下の毛を抜いてまで挑む松本、それを貪る眞島。逢引きをひとり息子に知られてしまうが、実は……という話。細かな設定が雑で、頭上に疑問符は浮かぶが、松本&眞島の濡れ場は心の永久保存版に。暇な時にぜひ。知らんけど。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年4月14日号掲載

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