知的障害のある人がアートで稼ぐ 岩手発「ヘラルボニー」社のビジネスと信念

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 おもに知的障害がある人のアート作品を軸に様々なビジネスを展開する「ヘラルボニー」という会社が、新しい事業を通して社会に影響を与え、よりよい未来に貢献した企業に与えられる「Rethinkアワード2022」を受賞するなど、注目を集めている。聞きなれない社名「ヘラルボニー」は、双子である代表で取締役社長の松田崇弥さん(31)と副代表の文登さん(31)の兄で、知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害の翔太さんが7歳の頃に自由帳に記した言葉だという。崇弥さんに話を伺った。

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150名以上の作家と契約

 2018年に、松田崇弥さん、文登さん兄弟がスタートさせた「ヘラルボニー」は、知的障害のある作家のアート作品のライセンス事業や、オリジナル商品の販売など、福祉×アートにまつわる多岐にわたる事業を手掛けている。本社は2人の故郷である岩手県にある。

「僕も文登も、もともとはアートや福祉に関係の無い分野でそれぞれ働いていており、最初は副業として始めたビジネスでした。障害のある作家の作品をデザインしたネクタイを販売するところから、スタートしました」(崇弥さん)

 事業のきっかけは、障害のある作家の優れた作品に出会ったことだという。

「例えば僕がアーティストになりたいと思ったら、作品をSNSで発表したり、画廊に売り込んだりと色々な方法があるでしょう。一方で、知的な障害のある方、特にその度合いが重い方はどれだけ突出した才能があっても、周りの人がサポートしない限りは作品が日の目を見ることがありません。だから、障害のある方の作品が適正に評価される場を作りたかったんです。僕らの兄が、知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害で、知的障害のイメージを変えたいと常々思っていたことも、大きな動機になりました」(同)

 国内外の福祉施設や団体、個人と契約し、現在、在籍する作家はおよそ150名、作品は2000点を超える。

「知的障害がある作家がほとんどで、それも中度から重度という重い障害のある方が多いです。それは、『ヘラルボニー』が作品を世に出すにあたってより大きな困難がある作家と共に仕事をしたいと考えているからです。また、障害のある方は、クライアントの締め切りに応じてコンスタントに作品を作り続けるというのが難しく、その方の負担になる場合が多いので、これまでに描いた作品をデジタルアーカイブ化し、そのデータを私たちが企業に提供することで、ライセンス料を作家ご本人やご家族、福祉施設にお支払いするという形をとっています」(同)

支援でなくビジネス

 近年、アート創作に取り組む障害福祉の事業所は多いという。

「2018年に『障害者による文化芸術活動の推進に関する法律』が制定されてからは、芸術活動の時間を設ける事業所が特に増えました。ただ、この法律は、文化芸術活動を通じた障害のある方たちの社会参画を推進するものであって、作家として商用ルートに乗せることまでは考えられていません」(同)

「ヘラルボニー」は障害者支援ではなく、あくまでビジネスとしてアート作品を取り扱い、作品の適正な対価が作家やその家族に支払われるシステムを構築している。

「障害者雇用促進法によって、企業には社員に占める障害者の割合である法定雇用率が設定されています。しかしながら、雇用される障害者の多くは、身体障害者で、知的障害者は作業所などで、ごく低い賃金を得ながら働くしかないという場合が多いです。『ヘラルボニー』では、作品データが企業等に採用される毎にライセンス料を還元できるという持続可能な循環を生み出すことにより、障害のある方の個性を生かした働き方が可能となっています」(同)

 とはいえ、デジタルアーカイブされた作品の全てが売れるわけではないという。

「福祉の世界では、平等ということが重視されるかもしれませんが、僕たちはビジネスなのである意味ドライに考えています。売れる作品と売れない作品があるのは当然で、商品のパッケージやテキスタイルデザインとして採用したいという企業のニーズが多いので、パターン化された模様のような図柄や明るくキャッチーな作品が人気という面もあります。美術作品として魅力的なものは、原画での販売の仲介を行っています」(同)

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