「米国回帰」を掲げながら「従中」を続ける尹錫悦 日米韓の共同軍事訓練を拒否
「親米」を掲げて大統領に当選した尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が就任前から米国を裏切った。中国の顔色をうかがい、日米韓の共同軍事訓練を拒否したのだ。この国のあいも変わらぬ「従中ぶり」を韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。
【解説】日米韓の共同訓練は“アウト”…17年に結ばれた中韓合意のポイント
左派政権の「拒否」を引き継ぐ
鈴置:尹錫悦氏のスポークスパーソンが、日米韓の共同訓練は実施しない、との方針を示しました。「韓米日三角協力とは軍事協力を指すのか、安保協力を指すのか」と、記者から問われて答えました。
聯合通信の「尹当選人側、『韓米日の実質的な安保協力を検討…軍事訓練とは異なる』」(3月31日、韓国語版)から、スポークスパーソンである金恩慧(キム・ウネ)国会議員の発言を拾います。
・共同軍事訓練なら安保協力ではなく軍事訓練段階に入るものだ。
・新政権では韓米日の間での実質的で効果的に安保協力をする方法を検討することになるのではないかと思う。
尹錫悦氏は選挙戦で「韓米日の安保協力強化」を謳いました。しかし、金恩慧氏は3カ国の共同軍事訓練は「公約を超える」として、実施しないと言明したのです。この記事も「韓米日3国の実質的な安保協力は強化するものの、3国が実際の軍事訓練を共にする段階には至らない、との趣旨だ」と解説しています。
朴槿恵(パク・クネ)政権まで、日米韓は海軍を中心に共同訓練を実施してきました。日韓の2カ国で行ったこともあります。2015年12月末、ソマリア沖のアデン湾です。3カ国で実施する予定が、米駆逐艦が参加できなくなったため、日韓だけで行いました。
この時は、世論を気にする韓国側が非公開にしてくれと頼んできたと産経新聞が報じています。「海自と韓国海軍が共同訓練 韓国、『自衛隊アレルギー』に配慮し非公表求める 昨年12月、ソマリア沖」(2016年1月13日)です。
3カ国の共同訓練を打ち切ったのは、中朝の言いなりだった文在寅(ムン・ジェイン)政権。5月10日に発足する尹錫悦政権は「親米保守」を唱えながら、左派政権の方針を引き継ぐことになります。
これに驚いた日本の安保関係者の間では「広報担当者の勘違いだろう」「認識不足の発言であり、いずれ米国から軌道修正を迫られるはずだ」との声が上がりました。
しかし、この発言は次期政権の確たる方針を反映した可能性が極めて高い。日米韓の軍事訓練は、中韓が約束した「3NO(三不)」に違反すると、中国が見なすであろうからです。
軍事訓練も「3NO」に違反
――どうして違反になるのでしょうか。
鈴置:2017年10月31日に中韓が合意した「3NO」は要約すれば、韓国は①THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の追加配備を米国に認めない②MD(ミサイル防衛網)を米国と構築しない③韓米日3国軍事同盟などの中国包囲網に参加しない――の3点です。
これだけ見ると、違反しないように見えます。しかし当時、韓国政府が発表した「韓中関係改善に関連した両国の協議の結果」などをきちんと読むと、日米韓の共同軍事訓練は「アウト」の可能性が高いのです。日本語訳を参照下さい。なお、韓国外交部のサイトに載っていたこの文書は今では読めなくなっています。
第4項に「中国側は……韓米日軍事協力などと関連し、中国政府の立場と憂慮を明らかにした。韓国側は……公開的に明らかにした関連する立場を改めて説明」とあります。これだけでは「関連する立場」とは何か、分かりません。
この第4項は前日、10月30日の韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官(当時)の国会答弁とセットになっています。与党議員の「中国が求める3点はどうするのか」との質問に以下のように答えて「関連する立場」を明らかにしていたのです。
・THAADの追加配備は検討していない。
・MDに参加しないとの従来の立場に変化はない。
・韓米日の軍事協力が3国間の軍事同盟に発展することはないとはっきり申し上げる。
これが世間で言われる「3NO」の淵源です。韓国は中国に対し、日米韓の軍事同盟を結成しないと約束しただけではありません。軍事協力が同盟に至ることはない、とも確約したのです。つまり、3国が実施する共同訓練が同盟に発展するものと中国が見なせば「3NO違反」と認定されかねないのです。
記者が尹錫悦氏のスポークスパーソンに「軍事協力か、安保協力か」と次期政権の姿勢を問いただしたのも、スポークスパーソンがその区分けに沿って答えたのも、「軍事協力は3NO違反」との認識があるからでしょう。
日本と安保協力はするが軍事訓練はしない――。尹錫悦政権の本質を象徴しています。「北朝鮮は仮想敵と見なすが、中国にはたてつかない」との基本姿勢がここでも明らかになったのです。
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