妻の「信じがたい秘密」を知って吐き気が止まらない… 43歳男性の苦しき胸のうち

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取材中にも吐き気は止まらず…

 妻はボロボロと涙をこぼしながら「ごめんなさい」と言った。謝らなくていい、事情を知りたいと彼は言った。気づいたら自分も涙を流していた。

「観念したんでしょう。妻は『あなたの見たままよ』と。そんな言い方はないだろう、せめて言い訳くらいしてほしい、否定してほしいと思わず言ってしまった。その後、妻はぽつりぽつりと話し始めました。要約すると、芙美香の母親が亡くなったのは13歳のとき。母は40歳直前、父は43歳だったそうです。両親はものすごく仲がよかったので、その後、父は落ち込んでしまった。仕事は行くものの、帰宅すると泣いている。芙美香はそんな父親がかわいそうで、食事を作ったりお酒の相手をしたりするようになった。芙美香自身も母を亡くしてつらかっただろうに、自分の悲しみを押し殺して父親に寄り添った。その延長線上にああいう行為があったらしい」

 その後、父はだんだん元気を取り戻し、逆に芙美香さんに食事を作ってくれるようになった。それからはまるで新婚夫婦みたいにべったり過ごしたわ、と芙美香さんは言った。

「何度も吐きながら聞きました。血のつながった父娘ですからね、僕自身が娘と……と考えたら、あり得ないとしか思えなかった」

 ただ、現実にこういうことは少なくない。13歳の芙美香さんが父を受け入れたのは、父がかわいそうだったからだと言ったが、実際にはまだ生活力のない少女が逃げる術をもっていなかっただけかもしれない。

「芙美香が言うには、もちろん恋愛感情などない。だけど父も自分も、どこかで人肌が恋しかったのかもしれない、と。それを聞いてまた吐きましたけどね。もう出るものがなくて胃液だけが上がってきた」

 突然、浩之さんは立ち上がってトイレに消えた。あまりに生々しい告白を聞いた私は気づいたら肩から首のあたりがガチガチに張っていたため、ゆっくりと首を回した。しばらくたって戻ってきた浩之さんは「すみませんでした」と頭を下げた。

「まだ過去の話になっていないんですね。人に話したら自分がどういう感情になるか想像できなかったんですが、想像以上に心身がキツいです」

何もできなかった浩之さん

 妻の告白を聞いて、浩之さんは離婚を考えた。当時、娘たちは10歳と8歳。自分がふたりを育てることもできるはずだ。子どもたちのためにも離婚するべきではないのか。彼はひたすら考え続けた。

「妻がときどき何かを考え込んでいたり、深夜にしくしく泣くのは、やはり当時のことを思い出してしまうからだそうです。この機会を失ったら二度と聞けない気がしたので、僕は芙美香に『そういうことを実の父親としていておかしいと思わなかったの』と尋ねました。彼女は泣くばかりで答えてくれなかった。もうひとつ、重要なのはどうして僕と結婚してからもそういう関係が続いたのかということです。それに関して、芙美香は『続いてはいない。父がこれからは父親としてだけ芙美香と向き合うと言ってくれたから同居もした。それなのに気づいたら、またこういう関係になっていた』と言うんです。気づいたらということはないでしょう、もう大人なんだから。『きみたち親子は畜生だな』と言いたかった。義父にも言ってやりたかった。だけど僕は結局、言えなかったんです」

 離婚という言葉すら言えなかった。義父の胸倉をつかんで、どういうつもりだったんだと怒鳴りつけたかった。だが彼はそうできなかった。帰宅すると夫婦の寝室にこもるようになった。妻は彼の気持ちを察して、娘の部屋で寝るようになった。どうしたらいいのか、彼も妻もわからなかったのだろう。

 ところがその1ヶ月後、義父が急逝してしまう。朝、珍しく妻に起こされた。「おとうさんが死んでる」と妻は言った。階下に降りて義父の寝室へ行くと、確かに義父はすでに冷たくなりかけていた。

「妻が義父を殺したのかと一瞬、思いました。次の瞬間、救急車と叫んだ記憶があります。ただ、もう亡くなっているので結局、警察が来て司法解剖されることになった。それで突発的な病気だとわかったんです」

 逃げ出すわけにもいかず、彼は通夜と葬式を出した。葬儀が終わって数少ない親戚も帰ったあと、骨壺を前に妻が言った。

「あなた、私を殺してよ、と。自分では死ねない。だけど私は死んだほうがいい人間だと思う。あなたに殺されるなら文句はないと。生理的な嫌悪感は消えません。義父への憎悪もあるし、妻への怒りもある。だけど妻を殺すことなどできない。その晩はふたりでずっと泣いていました」

 どうしても一言、言ってやりたかった義父はもういない。心労が重なったのだろう、妻が倒れて入院した。両親の不穏な雰囲気を感じていたのだろう、長女が「おとうさん、おかあさんを見捨てないで」と泣きながら言った。地獄だった、と彼はつぶやいた。

 1ヶ月入院した妻は退院後、仕事を辞めた。「あなたがどういう行動をとろうと、私はそれを受け入れるから。したいようにして」と妻は言った。

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