プーチンが国民を騙し続けるための“3条件” ロシア娘と母親、祖母の会話で浮き彫りになる違い
いかに情報統制があっても、ネットが発達した現代においてはそう国民を騙し続けられるものではないはず。それなのになぜロシア国民はプーチンを支持するのか。別の言い方をすれば、なぜ情報統制が機能するのか。この問いへの答えとして、公文書研究の第一人者である有馬哲夫氏が「洗脳」が成立するメカニズムを読み解きながら解説してくれた。以下、有馬氏の特別寄稿である。
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【写真】プーチン大統領と事実婚状態とされる元五輪金メダリスト「アリーナ・カバエワ」
プーチンを信じ続ける人たち
なぜ、ロシア人はウクライナ侵略報道に接しても、プーチンを支持するのか。
ウクライナ側が流す人々の悲しみ、苦しむ映像、とりわけ傷ついた子供の映像、破壊された住宅や打ち捨てられた戦車の残骸の映像をみて、胸がかきむしられる思いをする。なぜ、いったいこの人たちになんの罪があるのだろう、なぜこんなことがゆるされるのだろう、と思う。
悪鬼のようなプーチン大統領を何とかしたいと願う。
良識ある人であればそのように考えることは自然であろう。
しかし、ロシア側でもさぞかし非難の声が湧きあがり、プーチン打倒の動きが起こっているかと思うと、その期待は裏切られる。なるほど、西側メディアは、ロシア国内で「戦争反対」を声に出したり、プラカードに書いたりして抗議する一部の人々の姿を映すが、彼ら・彼女らは例外であって、圧倒的大多数は大統領を支持し、ロシアの大義のために戦争をしていて、悪いのは西側だと思い込んでいる。
なぜこのようなことが起こるのか。日本のマスコミはこう説明する。
「なぜって、ロシアを正当化する報道がされていて、ロシア人はみなそれを信じているから」
なるほどその通りなのだが、分析してみると、話はそれほど簡単ではない。それをコミュニケーション理論で説明してみよう。
象徴的なのは、あるニュース番組が紹介した、一人の20代くらいのロシア女性とその母親と祖母の間の会話だ。女性は母にロシア軍がウクライナで破壊と残虐行為を行っていると告げる。すると母は、半信半疑の顔をする。「ロシア軍はそんなことはしない。でも、たしかに様子がおかしい」、これに対して祖母は「ロシア軍は絶対そんなことはしない。西側は嘘をいっている。騙されてはいけない」。
接するメディアの違い
なぜ、このような違いがでてくるのだろうか。まず、注目すべきは接触しているメディアだ。
若い女性は主にSNSやインターネットから情報を得ている。これらのデジタルメディアは、つながりにくくはなっているが、西側の情報を流している。さまざまな迂回路があるからだ。だから、西側とほぼ同じ情報にアクセスできる。
これに対して、彼女の祖母は、主にプーチンが言論統制しているテレビから情報を得ている。つまり、ロシア軍は東ウクライナの親ロシア系住民のナチス主義者による虐殺を止めるために出動したのであって、都市の破壊とか住民の殺害とかはしていない。それらはナチス主義者とウクライナ軍の仕業だ。ロシア軍はむしろ住民に食料を与えたり、避難させたりしている。
さて、母はどうか。おそらく彼女の主な情報源はテレビだろうが、多少はSNSを使う。だから、プーチンを信じつつも、「あるいは」という疑念を持つのだろう。
つまり、接触しているメディアによって、ウクライナ侵略報道の情報の中身が大きく変わり態度も変わるということだ。
では、祖母や母にSNSを使わせたら変わるか。多分変わらないだろう。テレビのせいかもしれないから、SNSだけを使わせて、テレビを見せないようにしたらどうか。おそらく母はプーチンを疑い出すかもしれない。だが、祖母は信じ続けるだろう。
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