80代認知症の母を介護する100歳の父の言葉 「お母さんが一番不安」「お互いさまよ」
ひとつだけ残された仕事
ちなみに認知症の母は、映画の公開とともにまとめた最新刊(『ぼけますから、よろしくお願いします。おかえりお母さん』新潮社刊)の中で詳しく書きましたが、18年に脳梗塞を起こして長期入院中。病院はコロナ対策のため面会にも行けません。友人と会うことは自粛していたので、突然父と二人きりの、まるで引きこもりのような生活になってしまいました。
そんな私にひとつだけ残された仕事が、地元の中国新聞へのエッセイ「認知症からの贈り物」執筆でした。テーマは母の認知症。20年4月1日から、週1回、2カ月の連載を頼まれていたのです。ありったけのエネルギーをぶつけて書いたからでしょうか、おかげさまで新聞社にも反響が寄せられたようで、連載は終了時期を決めずに続けてくださいと言われました。
自粛生活で、時間はたっぷりあります。この機会に、父と私が母の認知症にどう向き合ってきたのかを、もう一度丁寧に振り返ってみました。ありがたいことに連載は21年8月いっぱいまで約1年半も続きました。この連載をぜひ広島以外の皆さんにも読んでもらいたいと思って、一冊の本にまとめたのが最新刊です。
要介護者を抱えた人が心穏やかに暮らすヒント
父は101歳になりましたが、耳が遠いのと腰が曲がっている以外は、どこも悪いところはありません。なぜこんなに健康長寿でいられるのか、そのあたりの謎にも迫ってみました。
母の異変におろおろしてばかりの私と違って、父の「肝の据わった」向き合い方は、娘から見ても「カッコイイ!」と思えるものでした。父の対応には、要介護者を家族に抱えた人たちが心穏やかに暮らすためのヒントが、いっぱい詰まっているんじゃないか? うちは本当に普通の家で、そんな普通の家族の老後の話だからこそ、誰にでもあてはまるメッセージとして受け取ってもらえるんじゃないかと思っています。