藤子不二雄Aさんが愛した「トキワ荘ラーメン」に大勢の“弔問客” 女将が振り返る巨匠との思い出

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「しのぶちゃん」のモデルは…

 午後3時、休憩に入ったところで、山本さんにお話を伺った。松葉の創業は昭和20年代。初代は山本さんの義父で、山本さんは91年に2代目だった夫の一廣さんと結婚して松葉で働くようになった。トキワ荘が取り壊された9年後のことである。

「だから、私自身はトキワ荘時代のことはよく知らないんです。けれど今も、当時の住人や漫画ファンが懐かしがってウチに通ってくれるんです」

「まんが道」には、「しのぶちゃん」という女性キャラクターが松葉の若いマドンナとして登場する。松葉を訪れるファンたちは、山本さんにモデルなのかとよく聞いてくるというが、

「違うのよ。だって、私はその頃、まだ嫁いでいないんだもの。あれは夫のお姉さんがモデルなんです」

お客さんを通しての縁

 山本さんと藤子Aさんとの縁は、トキワ荘が取り壊された後からの話である。

「今から15年くらい前、先代の主人がまだ生きていた頃にちょこちょこ来ていただいていました。必ず鈴木伸一先生がご一緒で、ビールを召し上がりながら1時間くらい、お二人で『あの頃は貧しかったなぁ』って懐かしがられていましたね。最後に来られたのはテレビ番組のロケで、12、3年くらい前くらいかなぁ。だから、そんなに交流があったわけでもないのです。私は中国から日本に嫁いできたので、今も日本語が上手じゃないし。実は、『まんが道』も読んだことないのよ(笑)」

 ただ、「優しい人だった」と人柄を懐かしむ。

「腰の低い人で、いつも『美味しかった、ごちそうさま』って帰っていかれました。私と先生との縁は、直接的なものというより、お客さんを通してのもの。こうやって、先生を懐かしがって大勢のお客さんがいらっしゃるのを見ると、いまも先生の漫画が多くの方に愛されているんだなって実感します。これからも、先生が愛したトキワ荘時代の味を守っていきたいと思います」

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