〈カムカム〉最終回で読み解く藤本脚本の奥深さ なぜ丸いものが数多く登場した?
安子に戻ったアニー
まず、アニー(森山良子)が安子に戻り、そして故郷の岡山に戻って来た。第38話(1951年)以来のことだった。稔と2人で参拝した思い出の朝丘神社にも戻って来た。
アニーが安子であることを告白したのは磯村吟(浜村淳)のラジオ番組だった(第109話、2003年)。どうしてだったのか。
理由の1つが孫のひなたとの思わぬ出会いなのは説明するまでもない。ひなたの作ったあんこに、祖父・杵太郎(大和田伸也)から受け継いだおまじないがかけられていることを知り、自分は安子であるという思いを強くしたのだろう(第107話、2003年)。
だが、告白した一番の訳は、るいとの関係をこのままで終わらせたくなかったからに違いない。秘密を抱え、自分を偽ったまま生きるのは辛い。心残りを抱いたまま老いていくのも苦しい。それが愛娘に関することとなったら、なおのこと。安子がるいを、ずっと、ずっと、深く愛していたのは疑いようのないことなのだから。
安子の告白は英語から日本語の標準語に変わり、やがて岡山弁になった。アニーの仮面が徐々に取れ、安子に戻っていった。
「るい、お母さん、あれから何遍も考えたんよ。なんで、こげなことになってしまったんじゃろ……」
安子は岡山へ戻ったものの、当初はるい、ひなたから逃げようとした(第110話、2003年)。無理もない。るいの前から消えたことが、本当に良かったのかどうか52年間も逡巡し続けていたのだから。会いたいと強く願う半面、会うのが怖かったはずだ。別離の際には「i hate you(嫌い)」とまで言われている(第38話、1951年)。
一方、るいも自分の過ちを強く後悔していた。伯父・算太(濱田岳)、叔母・雪衣(多岐川由美。若年期は岡田結実)から懺悔を受け、安子の実像を知ったからだ。るいはかつて安子を嫌い、軽蔑していたが、それを悔いた。もはや安子に贈る言葉は「I love you」しかなかった。
第107話(2003年)でるいが雪衣に言った通り、「みんな間違う」。るいは安子を赦した訳ではない。安子には最初から非が見当たらないのだから。安子はるいのために自分を捨て、死に物狂いで働いていた。こんな母親を責められる子供がどこにいるだろう。すべては誤解。戦争を背景に生まれた誤解が、あまりにも不幸で悲しい運命を母娘に背負わせた。
かつてGHQの社交場だった旧岡山偕行社でのクリスマスフェスティバルには懐かしい面々が戻って来た。そして聖夜は数々の奇跡を生む。録音だったものの、錠一郞のトランペットの音色も戻って来た。二度とないと思われていた親友・トミー北沢(五月女太一)との共演が実現した。なにより、安子にるいが、るいに安子が戻って来た。
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