ESGの観点からロシアはもはや投資不可能な国 そこで浮上する意外な投資先とは

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投資先は「軍需」と「化石燃料」へ

 ESG投資家は人道的な観点から「売上高の5%以上を軍需関連企業に投資しない」と制約を課している場合が多いが、スウェーデン金融大手SEBはウクライナ危機を受けてESGの観点から米国の軍需関連企業への投資を決定した。

「軍需産業への投資は民主主義や人権を守る上で重要である」とするSEBの説明について、「北大西洋条約機構(NATO)諸国からウクライナへの武器供与は同国の平和と民主主義を守るための支援だ」と肯定的に評価する向きが多い。日本とは異なり欧米では「民主主義や人権は与えられたものではなく、血を流して勝ち取って守ってきたもの」との認識が強いことが影響しているのだろう。

 ロシア軍の侵攻阻止に威力を発揮しているとされるスティンガー・ミサイルやジャベリン対戦車ミサイルなどを製造しているロッキードマーチンやレイセオン・テクノロジーズなど軍需関連銘柄はウクライナ危機以降、好調に推移している。

 ドイツを始め欧州で軍備が拡張されることが確実視されていることを背景に「長期的な上昇相場が始まる」との観測も出ており、軍需関連企業が今後有望な投資先になる可能性が高いのではないだろうか。

 世界は「脱炭素」化の動きを邁進してきたが、ウクライナ危機のせいで化石燃料への回帰が避けて通れなくなっている。

「脱炭素」で世界を主導してきた欧州連合(EU)は、エネルギー政策の軸足を「エネルギー安全保障」にシフトせざるを得なくなっている。

 ロシア産天然ガスの依存を1年以内に3分の1に削減する戦略を打ち出しているEUは米国やアフリカから天然ガスの調達を拡大するとともに、二酸化炭素の排出抑制に最も不向きな石炭の使用量を一時的に増加させることが不可避な情勢となっている。

 ロシア産天然ガスの依存度が最も高いドイツでは、電力最大手RWEは停止した石炭火力発電所の再稼働や停止を決定した発電所の運転延長について検討を開始した。

 天然ガスの脱ロシア化を優先しようとすれば、脱炭素に目をつぶるしかないのだ。

 米国でも同様の状況だ。バイデン大統領は3月31日、戦略石油備蓄(SPR)からの前例のない規模(1億8000万バレル)の原油の放出を決定した。「放出される原油の利用で二酸化炭素の排出量が増大する」との批判にもかかわらず、連邦議会の中間選挙を今年後半に控え、ガソリン価格を押し下げることを優先した形だ。

 世界の株式市場の主役も変わった。電気自動車や半導体などハイテク関連株が金利上昇のあおりを受けて失速するのを尻目に、需給逼迫を材料に化石燃料を始めとするエネルギー株が昨年末から40%近く上昇している。「座礁資産」と揶揄された化石燃料へのESG投資が今後増加する可能性が高い。

 ウクライナ危機で世界の地政学リスクが上昇したことで、有望な投資先が軍需と化石燃料分野になってしまったと言わざるを得ない。

 ESG投資が本来の趣旨に立ち戻れる日はいつになったらやってくるのだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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