〈カムカム〉叔母の懺悔でついに解けた母親への誤解…それでもるいの表情は暗かった理由

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視聴者世代の「若さ」

 この朝ドラが人気を得た理由の1つがテンポの良さにあるのは間違いない。緩慢な場面がなかった。省略ではない。もしも省略したら観る側の胸を突けない。描くべき場面が絞り込まれていた。舞台と全く同じである。「何を描けば伝わるか」が熟慮されていた。

 一例は岡山大空襲(第17話、1945年)。たった5分の間に燃え上がる街、吉右衛門(石坂大志、成人後は堀部圭亮)を庇った吉兵衛(堀部圭亮)の死、安子ら逃げ回る市民、妻の小しず(西田尚美)と母のひさ(鷲尾真知子)を失って茫然自失となる金太(甲本雅裕)を収め、戦争のむごたらしさを十分に描き切った。

 稔の戦死の報せは手紙のみ。戦友の報告はなく、遺骨どころか遺髪すら帰って来なかった(第20話、1945年)。これにより、稔のみならず、戦死した軍人・軍属約230万人の悲哀を一瞬で表現した。

 戦死報告の場面が短かった分、この朝ドラは現代のドラマでは極めて異例と言っていいくらい終戦記念日を大切に扱った(第97話、1994年など)。この国の繁栄のために身を捨てた英霊たちへの鎮魂の思いが込められていたのだろう。その点、硬派作品でもあった。

 テンポの速さ、さまざまな仕掛けが若い視聴者の獲得を意識してのことなのは間違いない。世代・性別の個人視聴率を見ると、通常の朝ドラは圧倒的に50代以上の女性の視聴者が多いが、「カムカム」は男女35歳から49歳の個人視聴率も高い。

 興味深いのは子供の視聴者が意外なくらい多いこと。3月31日放送分は春休みだったこともあり、男女4歳から12歳の個人視聴率が高く、20歳から34歳の男性(M1)、同女性(F1)を超えた。M1もF1も仕事に出ていた人が多いのだろうが、子供や若年層も引き付けたのは確か。深読みするとキリがない作品だったものの、メインテーマも物語も分かりやすかったから子供も引き付けたのだろう。

 ただ眺めているだけでも面白いし、考察の余地もあった。これが人気作となった一番の理由に違いない。

 最後に、どうして、ひなた編で繰り返し「ノストラダムスの大予言」が登場したのかについて考察してみたい。この朝ドラのキャッチコピーの1つ「未来なんてわからなくたって、生きるのだ。」に深く関わる。

 藤本さんからのこんなメッセージなのだろう。

「未来なんて予言できない。それでも未来へ進むことを恐れていたら、幸せは掴めない」

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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