42歳男性は夜の生活を拒まれ、妻からの“一言”で狂った… 彼女の言葉に悪意はあったのか

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ふたりの関係をもう一度…

 とはいえ、荒んだ生活も3年もたてば飽きてくる。仕事も忙しくなってきた時期だ。中堅としてがんばらなければならない立場になっていた。気持ちを入れ替えて、仕事に真剣に向き合うとどんどんおもしろくなっていく。ちょうどそのころ異動してきた直属の上司が滋明さんを引き立ててくれた。荒んだ3年を取り返すかのように、その後の3年は必死に働いた。

 一方、梨枝さんはその間、芝居関係の仕事を失っていったようだ。

「あるとき早めに帰ったら彼女が自分で食事を作っていたんです。『珍しいね』というと『貧乏だから自炊してる』と淡々と言う。どうしたのと聞いたら、『舞台関係の仕事がほとんどないから、最近はずっと美容師のアルバイトをしているの』と。彼女が舞台関係で実際、どういう仕事をしているのか具体的には知らなかったんですが、俳優のヘアメイクが本筋で、照明の手伝いから小道具まで、いろいろなことをしていたようです。小さな劇団ばかりで仕事をしてきたけど、『それなりに年をとってしまったから、もうどこも使ってくれないのよ』と。確かに若い子を使ったほうがギャラも安くてすむでしょうしね」

 彼女自身が小さな劇団が好きだったせいもあるだろうと滋明さんは付け加えた。人生を考え直すなら今かもしれないと、梨枝さんはつぶやいたという。

「梨枝は好きなように生きればいいよ。そういう梨枝が僕は好きだからと言ったんです。それは本当の気持ちだった。でもこのあたりでふたりの関係はもう一度、いい方向にもっていきたい。性的関係はもたなくてもいい。だけど心を結び直したいと」

 その言葉は梨枝さんの気持ちに届いたようだった。私、あなたをないがしろにしてきたのねと彼女は言った。そういうことではないけれどと滋明さんは答えた。

「結婚には向いてないのかもと梨枝が言うから、僕だって普通の結婚生活なんて望んでいないよと言いました。ただ、気持ちが行き交わない関係がつらいんだ、と。彼女は『わかった』と言いながら泣いていました。大好きだった舞台関係の仕事がうまくいかないことでつらい思いをしていたんでしょう。僕がそんな彼女の気持ちを本当にわかっていたかどうか、あやふやですけど。結局、僕は自分が寂しいから彼女にこちらを向いてほしかっただけなのかもしれない」

 愛情の示し方はむずかしい。いや、そもそも愛情とは何なのかも考え出すとわからなくなっていく。どこまで愛する人の立場になれるのか、心を慮れるのか。踏み込みすぎれば押しつけになるし、見守るつもりが傍観しているだけと受け取られる可能性もある。言葉で確認しても、それが真実かどうかはわからない。

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