戦禍とアレルギーを乗り越えたジョコビッチ ワクチン接種を強制するテニス界の排他性(小林信也)

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ピザは毒物

 口に入れるものを変えて、ジョコビッチは3強と呼ばれる存在となり、さらには二人を凌ぐ王者になった。

 新型コロナのワクチン接種をしなかったために全豪オープン出場を拒否されたとき、「ワクチンを接種すれば済むことだ」と言い放った選手がいた。その通りだが、世界の多くの人々がコロナ対策の切り札だと信じるワクチンを、アレルギーに苦しんだジョコビッチが接種できない気持ちになるのを誰が責められるだろう。

 全仏オープン、ウィンブルドンへの参加も悲観的な状況だ。2月の北京五輪ではワクチン未接種でも3週間の隔離を条件に参加が許された。が、テニス界はなぜか排他的な方向に傾いている。

 そんな中、ジョコビッチは2月に英BBCの取材に答えて、「ワクチン接種を強制されるなら、四大大会も諦める」と明言した。

 スポーツにおいて、前回大会優勝者への敬意は最大限に尊重されるべきだとの不文律がある。前年度王者を門前払いした全豪オープンと豪政府はそれを踏みにじったと私は理解している。事前に協議を重ねて最善を尽くすべきだった。全仏、全英も同様だ。前年王者が冷たく排除されるなら、オープンな大会ではない。今年の大会は全豪ローカル、全仏クローズといった名で非公式に扱われるべきだと私は感じている。

 ジョコビッチからテニスを奪う不遜を、関係者もファンももっと鋭く胸に問うべきだと思う。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2022年3月31日号掲載

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