〈ウクライナ侵攻〉ブロック化が始まる世界のエネルギー市場
マーシャル・プラン
窮地に追い込まれつつあるEUに救いの手を差し伸べているのは米国だ。
米国政府は25日「カタールなど他のLNG供給国とともに、今年の欧州へのLNG供給を少なくとも150億立方メートル追加することを目指す」と発表したが、EUの天然ガス輸入量(約3400億立方メートル)の4%強に過ぎず、力不足の感は否めない。
EUがロシア産天然ガス依存からの脱却を確実なものにするためには、米国での天然ガス(シェールガス)の生産を拡大することが不可欠だ。
米銀JPモルガン・チェイスのダイモンCEOは21日、バイデン政権幹部との会合で「国内の天然ガス資源開発を促進する『マーシャル・プラン』が必要だ」との考えを示した。
マーシャル・プランとは1947年当時の米国務長官だったマーシャルが発表した西欧諸国復興支援計画のことだ。第2次世界大戦後の西欧諸国の復興にとって大きな力になったが、冷戦体制の固定化をもたらしたとの評価もある。
「脱炭素」に舵を切るバイデン政権は、仇敵ロシアの欧州での影響力を削ぐために、必ずしも関係が良好ではない国内のシェール業界と大同団結できるのだろうか。
西側諸国の「ブロック化」の動きに対し、ロシアも中国への関与を強めている。
現在、ロシアと中国をつなぐ天然ガスパイプラインは2019年に稼働した「シベリアの力(年間輸送能力は380億立方メートル)」だけだが、2月4日の中ロ首脳会談でサハリンからの新パイプラインを建設し、年間輸送能力を100億立方メートル上積みすることに合意した。ガスプロムは3月1日、モンゴルを経由する新パイプライン「シベリアの力2」の建設プロジェクトの具体化に着手したことを明らかにしており、完成すれば年間輸送能力500億立方メートルが追加される。
これら3つのパイプラインの年間輸送能力は合計で980億立方メートルとなり、ロシアからの欧州への輸出量(1550億立方メートル)の3分の2となる計算だ。輸出量が減っても価格が高水準で推移すれば、ガス売却で得られる収入が減少することはない。だがロシアの欧州向けと中国向けの天然ガスの生産地は異なるため、その間をつなぐパイプラインの整備のために巨額の投資が必要となるとの課題がある。
「今年のコモディティー価格は1915年以来の大幅な上昇を記録する」との予測が出ている(3月25日付ロイター)。ブロック化の動きが天然ガスからエネルギー全般に波及するような事態になれば、的中する確率は限りなく高まるのではないだろうか。
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