近江・山田陽翔君は無理して投げさせるべきはなかった…“美談”で終わらせてはいけない問題点
大阪桐蔭の4年ぶり4度目の優勝で幕を閉じた選抜高校野球。高い前評判に違わぬ見事な戦いぶりだったが、そんな優勝したチーム以上に大きな話題となったのが、近江のエース、山田陽翔ではないだろうか。【西尾典文/野球ライター】
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守備でまともに走ることができない状態
チームは大会開幕の前日(雨天順延による開幕は1日延期)に京都国際が部員の新型コロナウイルス感染によって出場辞退したことを受け、急遽、補欠校から繰り上がっての出場となったことで準備不足を懸念する声も多かった。
だが、そんな不安を感じさせないピッチングで1回戦から4試合連続で完投。ストレートの最速は、今大会で登板した全投手の中で1位タイとなる146キロをマークし、プロのスカウト陣からも山田の投球を高く評価する声が多く聞かれた。
山田が注目されたのは、その活躍だけではない。大きな物議を醸したのが準決勝、浦和学院戦での投球だ。5回裏の打席で左足に死球を受けた山田は、治療のために、一度ベンチに下がりながらも続投。マウンドに上がる時は、左足を引きずり、守備でまともに走ることができない状態でも、延長11回まで1人で投げ抜いてみせたのだ。その球数は170球に及んだ。
試合後、近江の多賀章仁監督は、涙を流しながら、山田の熱闘をたたえ、山田自身も「監督さんが投げさせてくれたおかげ」とコメントしている。昭和や平成の初期であれば、“感動の物語”として称賛を集めたことは間違いない。
「つぶれてしまいそうで怖い」
その一方、世論的には、山田の続投を疑問視する声は非常に多かった。甲子園歴代最多の68勝を記録している、智弁和歌山の高嶋仁前監督は、3月31日に配信されたスポーツ報知の記事で「バント処理を見ても動けておらず、つぶれてしまいそうで怖い。準決勝も『代えてあげて』と思いました。彼が『いける』と言えば、心情的に代えにくいことは理解できますが、ちょっとかわいそうでした」とコメントしている。
高校のチームを指導するトレーナーに山田の件について、筆者が取材してみると、以下のような話が聞かれた。
「映像で足を引きずりながらプレーをしている様子を見る限り、トレーナーという立場からは、降板させてほしかったというのが本音ですね。試合中は、アドレナリンが出ていて、痛みに耐えられるかもしれませんが、左足は投げる時に体重がかかるので当然、負担が大きいです。あと心配なのが、足をかばうことによって他の部分に影響が出ることです。下半身がいつものように使えなければ、他の部分に負担がかかります。肩や肘にも、もちろん良くありません。それまでに多くの球数を投げていることも体の負担になっているはずなので、とにかく無理はしてほしくないですね」
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