相手に真意を伝えるには言葉より大切にすべきことがある……日テレ藤井アナが語る「スピード」と「ボリューム」の極意

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 夕方の情報番組「news every.」(日本テレビ)メインキャスターとして、さまざまなメッセージを発信する藤井貴彦アナウンサーの言葉が「心に響く」と話題になっています。相手に届く言葉を紡ぐには、言葉そのものだけではなく、「スピード」と「ボリューム」も大切だ、と藤井アナは語ります。著書『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』から紹介します。

自分と相手の間にある「タイムラグ」を意識する

 誰かに思いを伝える時に、私が大切にしているのはスピードです。

 スピードとトーンの間には「相関性」があって、ゆっくり話すほどやさしいトーンになり、速く話すほどトーンがきつくなる傾向があります。ですから、スピードのコントロールができれば自然とトーンも決まります。

 また、このスピードを調整する時には、伝え手と聞き手では環境が大きく違うということを意識する必要があります。

 私たちは誰かの話を聞く時にまず音を鼓膜で受け止めて、それが脳に届いてやっと理解します。0.1秒以下の世界のお話ですが、理解までにわずかな時間を要します。一方、話し手は口で発音したその瞬間に仕事が終わります。

 このタイムラグが意外にやっかいなのです。

ゆっくり話すのは、どうして難しいのか

 普段私は、読みが速い後輩に対して「視聴者が理解をする時間が必要だから、もう少しスピードを落として待ってあげよう」とアドバイスします。これは一朝一夕には身につかないスキルです。新人アナウンサーの研修でも、「もっとゆっくり」「もっとかみしめるように」と伝えますが、「本当にこんなにゆっくりでいいのですか?」とみんな困惑しています。

 それほど、ゆっくりしゃべるのは難しいことであり、それは相手の立場でものを考えることの難しさでもあるのです。

 例えば後輩に「アドバイス」をする場面でも、当然スピード調整が必要です。後輩にとっては「嫌なことを言われている」状況ですから、相手が理解するまでのタイムラグは、さらに広めにとる必要があります。

 相手の立場で、スピード調整できるかどうか。それが伝わる仕組みの根幹です。

伝えるスピードは気遣いのサイン

 なお、今でも私は、自分の読んだニュースを録画で見返して、スピード調整を行っています。この調整を怠ると、伝えるスピードがどんどん速くなっていきます。

 また、キャリアの浅いアナウンサーほど読みが速い傾向があります。伝える速さは、成熟度に比例するのかもしれません。若いころの私も気遣いのできない人間でした。自戒も込めてここに書き留めておきます。

 私たちは自分のスピードに任せて話してしまいがちですから、丁寧にスピード調整をしたいですね。

「伝える量」は腹八分で

 私は後輩にニュースの読み方を伝える時に「視聴者を待つこと」が大切だと指導している、と先にお話ししました。

 これは伝える「スピード」に関するアドバイスでしたが、実は伝える「ボリューム」も同じ仕組みです。どんなにおいしい食事でも、食べ過ぎてしまっては良さが半減します。みなさんが誰かにメッセージを伝える時も同様で、相手の腹八分を意識すると伝わりやすいと感じています。

あなたは、伝えすぎていないか?

 実はいいアドバイスを持っている方ほど、「伝えすぎ」の傾向があります。アドバイスを聞く側はすでにその日のアドバイスの許容量を超えているのに、伝える側は、おいしいからもっと食べさせたいと思ってしまうような場合です。そうなると相手はすっかり満腹になり、しばらくこのお店に行かなくてもいいなと思うようになってしまいます。満腹にさせすぎてリピーターを失うことは避けたいですね。伝え方もこのボリュームが大切なのです。

 一方、腹八分を意識して伝達量を調整すると、満腹にならない人も出てきます。アドバイスに自信があるという方は、ここで初めてアドバイスを追加すればいいでしょう。おかわりをしたい人に、食事を追加で提供するイメージです。

量を調整し、相手の表情を観察する

 最後に、腹八分の別の効果についてお伝えします。

 まず、伝達量を控えめにすることで、アドバイスにかかる時間が短縮されます。すでに満腹な人、アドバイスを聞きたくない人からすればありがたいことでしょう。

 また、アドバイスを短く終えた後の相手の反応にはたくさんのヒントが詰まっています。アドバイスの直後に高速で帰り支度をする人や、ほっとした安堵の表情を浮かべる人もいて、「あ、私のアドバイスは聞きたくなかったんだな」とか、「この課題については興味がないのかな」など、相手のスタンスを見るいい機会になるのです。

 伝達量を調整すれば、あなたの思いやりを無駄にしないですむはずです。

 大切なアドバイスは、ぜひ上手に出し惜しみしてください。

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※『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』の本文を一部抜粋・再編集したものです。

藤井貴彦(ふじいたかひこ)
1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。新型コロナウイルス報道では、視聴者に寄り添った呼びかけを続けて注目された。

デイリー新潮編集部

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