ウクライナ侵攻長期化なら北方領土返還の可能性 日本も考えるべき「悪魔の選択」

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 ロシア外務省が3月21日、北方領土問題を含む日本との平和条約締結交渉を現状では継続するつもりはないと発表した。これによって北方領土問題の解決は絶望的となったかに見える。一方で、国家間の外交は冷酷無比なもので、他国のダメージが自国の利益となるのは珍しいことではない。それを踏まえると、ウクライナ戦争の長期化でロシアが疲弊するほど、むしろ北方領土返還につながる可能性があるとも考えられる。むろん、日本の国益だけを考えた場合の話である。これは悪魔のような考えで、ウクライナ市民の犠牲が報道されるたびに私も非常に胸が痛む。一日も早くロシアによる侵攻が終結すべきであることは言うまでもない。しかし、批判覚悟でひとつの視座として記す。(武田一顕 ジャーナリスト、映画監督)

 独裁国家の指導者は、自身や自国が困窮の極みに落ちた時しかまともな外交交渉に応じない……。これは歴史を見れば明らかだ。国家の成り立ちが似ている3つの国を比較してみよう。

 例えば、北朝鮮。アメリカのブッシュ大統領が「悪の枢軸」と呼んだことで、自分たちが滅ぼされかねないと、当時の金正日総書記は悟った。そこで2002年9月、金正日は小泉総理を平壌に招き、一部ではあるが拉致被害者を帰国させ、アメリカへの橋渡しを頼んだ。それまで10年以上行われた日朝交渉では、拉致被害者はいないと頑なだった北朝鮮だが、アメリカからの軍事攻撃を怖れるあまり一転して、拉致被害者帰国に同意したのだ。

 次に中国。蜜月だったソ連と手を切った瞬間、そのソ連に攻められる可能性がある……。そう考えた毛沢東主席は、それまで最大の敵であったアメリカのニクソン大統領と握手した上で、日中戦争で中国を侵略した日本の田中角栄総理を北京に招いて日中国交正常化を熱望した。1972年のことだ。日本国内には今でも田中が中国に対して片思いだったような論調があるが、尻に火がついていたのはむしろ中国で、田中はそのタイミングを見逃さなかったと理解すべきだろう。

 そして、ロシア。安倍総理は通算27回もプーチン大統領と会談を重ねて北方領土問題の打開を目指したが、結局1ミリの領土も返ってこなかった。プーチンは領土拡張主義者であって、国際協調主義者ではない。会談を重ねて親密になったからと言って、領土を返すようなリーダーではないのだ。

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