客に迫られても絶対NO… 42歳“不人気”メンズエステ嬢の「プライド」と「V系バンド」

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36歳で風俗デビューの危機

 田舎で生まれ育った北条は、実家は地元密着の小売店で、子供の頃は学校が終わるとお店のパートさんや客と話をするのが楽しみだったというから、彼女のコミュニケーション能力はここで育まれたのだろう。高校卒業を機に舞台女優を目指して上京した。父がかつて俳優を目指していたこともあって、演劇学校の学費、生活費はすべて親が面倒を見てくれたという。

 専門学校を卒業した後も事務職をしながら活動をつづけ、時たま小さい劇場を借りて舞台に立った。だが、仕事のほうは肌に合わなかったようだ。

「私じゃなくっても良いんじゃない? って。誰がやっても同じなんじゃん? って思うようになって。自分で言うのも変なんですが、私、与えられた仕事をやるのがめちゃくちゃ早く出来ちゃうんです。すぐに効率良く出来るようになっちゃう。だから1日のノルマの仕事はすぐに終わっちゃって、すごい暇だから上司に『次の仕事ないですか?』ってウザイ人になっちゃう」

 定時まで座って居れば給料を貰えるのだから、悪い職場ではなかったのでは?と尋ねるも、

「何かやってないと……時間を無駄に潰すのが出来なくて。パソコンは会社用で自由に使えない、スマホは持ち込めない。ホント、何したら良いか分からない。それが凄いストレスになっちゃって。それで会社を辞めたんです」

 演劇は25歳頃まで続けたが、共に舞台イベントを主催していた友人が実家に帰ったのを機に、熱が冷めていった。専門時代から現場を見てきたことで、今後、改めてプロを目指す自信もなかった。一時は遅咲きのバンド趣味に目覚め、かねてより好きだった「DIR EN GREY(ディル・アン・グレイ)のコピーバンドに勤しむ。やはり周囲の結婚などがきっかけで30歳を過ぎてバンドもやめることになるが、彼らへの情熱は冷めなかった。フリーターをやりながら「バンギャ」、つまり追っかけになったのだ。

 とはいえ、追っかけはお金がかかる。地方へのコンサートを観に行くにしても、チケット代のほか、交通費や宿泊代と少なくとも20万円以上は必要だ。消費者金融も利用したが、フリーターの身では返済が滞るようになってしまった。再び昼の仕事を始めるのも嫌だ。そこで初めて風俗店の門を叩くことになった。当時、36歳だった。

「『ソフトサービスです』とネットで見つけたのですが、これがいわゆる『釣り』求人で。面接に行ったらホテルヘルスだったんですよ。面接担当の人に『考えるよりも一回やってみないと』『1日だけ頑張ればすぐに借金は返せるようになるよ』と熱心に口説かれたけど、私は『1日考えさせてください!』って帰っちゃったんです。今、思うとそれが良かった。ヘルス嬢になっていたら病んで病みまくっていたかもしれないですね」

 北条は19歳の時に付き合った演劇学校の彼氏をふくめ、3人の男性としか交際していない。そんな男性遍歴の彼女が36歳でヘルスに勤めるのはやはり抵抗あるだろう。その後、あらためて職を探し、現在のメンエスに落ち着いた。

「10代の終わりにキャバクラで働いたこともあったんですけど、指名が取れなくてクビになりました。男の人に媚びを売るのが凄い苦手なんです。お客さんがつく女の子は、だいたいがLINEをお客と交換して営業を頑張っています。でも、私はプライベートと仕事を混合することができない。せいぜい、店用に作ったTwitterアカウントをたまに覗いて、ダイレクトメールを使うくらい。サボっていると思われるかもしれませんが、これくらいの距離感のほうが、マトモなお客さんがつくというのもあります。だって、フツーに一般社会で働いてて家庭がある人が、エステ嬢とLINEのやりとりしてたら駄目でしょ。奥さんに見つかったら一発でアウトだし。そんな危険な橋を渡ってまで遊ぶのはどうかと。だったらバレにくいSNSを使ったやりとりの方が安全、安心じゃないですか」

 いまも生きがいは「“Dir”」。そしてツアーやライブの日以外は、1日も休まずに出勤している。まったく稼げない日もあるから、トータルで30万円に届かない月も多い。交通費、食費、待機時間を考えると、時給が発生する一般職の仕事の方が稼げるはず……。貯金は90万円。コロナでツアーがなくなったから少し貯まった、らしい。

「彼氏? 全然いないですね。必要とも考えないし。というか、私の『彼氏』はみんなのものですから。独占したら駄目じゃないですか。ホント、その『彼氏』に会いに行く為に働いてる。生きてると言っても良いですよ」

 現在は上京している会社員の兄と同居している。兄はバツイチだそうで、北条と家賃や生活費を折半。一緒にお酒を飲みに行くくらい仲が良く、メンエス嬢の仕事のことも伝えているそうだ。

 いつまでその生き方を続けるのか、を聞くと、

「流石に最近は考えてます。昼の仕事をしたほうがいいんじゃないかって。だって、普通の仕事は『過剰』をしなくても『ありがとう』って言われるんですよ。普通のことをしてるだけで感謝される、ありがとうって言われる仕事ってやっぱりうらやましいですよ。でも昼の仕事をすると、ツアーが始まった時に、回れなくなっちゃうからなあ」

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』ほか、主な著作に『売る男、買う女』『東電OL禁断の25時』など。Twitter: @muchiuna

デイリー新潮編集部

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