〈カムカム〉最大の謎「アニー・ヒラカワ」の正体 そして物語はどう決着するのか

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名字の意味

 この物語は普通に眺めているだけでも十分面白いものの、考察の余地もあるのは知られている通り。主な登場人物の名字にも意味があった。

 まず安子の嫁ぎ先の名字・雉真。その意味を知ると、切なくなる。

 雉は親から子への愛情が極めて強い。雉が1947年に国鳥に制定された理由の1つでもある。「焼け野の雉、夜の鶴」ということわざもあるくらい。

 このことわざは親から子への深い愛情を示す。雉は野にある巣に火が近づくと、自分が焼け死んででも子を救い出そうとするという。また、鶴は寒い夜に自分の羽で子を暖める。

 稔(松村北斗)はるいが生まれた日本を守るため、英霊になった。一方、安子は一般市民1737人が犠牲になった米軍による無差別爆撃・岡山大空襲(第17話、1945年)の際、幼いるいを抱えて火から懸命に逃げた。文字通り「焼け野の雉」だった。

 安子編の舞台・岡山が、昔話「桃太郎」の生まれた地で、お供に雉が含まれるのも雉真となった理由だろうが、ダブルミーニングだった。

 赤螺吉兵衛、吉右衛門親子の場合はとても分かりやすい。赤螺は巻き貝だが、古くから別の意味を持つ。

「蓋を堅く閉じたさまが、金銀を握って放さない様子に似ているところから、けちな人をあざけっていう語」(小学館「精選版 日本国語大辞典」)

 名字のままである。

 一方、安子の旧姓は橘。植物としての橘は日本書紀や古事記の当時から「永遠の象徴」。1937年に制定された文化勲章のデザインに橘が採用された理由も昭和天皇による「文化は永遠である」とのお言葉からだった。

 この物語の場合、安子からるい、るいから安子への愛が永遠であることを表しているのだろう。るいからジョーへの愛も。また登場人物たちの友情もそうだ。実家の和菓子店「たちばな」で生まれたあんこには永遠を引き寄せる力がある。

 気がつくと、この物語に登場した友情は1つとして壊れていない。錠一郞とトミー北沢(早乙女太一)、るいと一子(市川実日子)、ひなたと一恵(三浦透子)、小夜子(新川優愛)。

 みんな立場や生育環境を超え、純粋で固い友情で結ばれている。それがずっと続いている。おそらく、安子と水田きぬ(若年期は小野花梨)の友情も変わっていない。

 これまでの世帯視聴率の最高値は第96話(3月17日放送)で記録された19.5%(個人11.0%)。内容は大月一家の岡山への里帰りだった。

 往年の朝ドラと比べると、平凡な視聴率のようだが、それは録画機器が発達したから。録画機器を使ってのタイムシフト視聴分を合わせた総合世帯視聴率は25%近くに達している。

 最終回では「すずらん」以来の世帯視聴率30%超えもあるはず。なぜなら、みんな録画ではなく早く観たいからである。

 かつての日本テレビのヒットメーカーで現在は幹部の1人から、驚異的な視聴率をマークするドラマの条件を教えてもらったことがある。答えは単純明快だった。

「早く観たい、すぐ観たいと思ってもらうこと」

 謎や疑問が最終回まで解消されそうにないこの物語は、驚異的視聴率を獲得する要素が詰まっている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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