〈ウクライナ危機〉世界の小麦市場は大混乱でイラク発「第三次石油危機」の重大リスク
「ロシアによるウクライナ侵攻の結果、世界は食糧不足に見舞われるだろう」
【写真】ロシア「パブロフ外相」の愛人との密会場所とされる渋谷区のビル
3月24日の主要7カ国(G7)首脳会議に出席したバイデン米大統領はこのように述べ、食糧不足を補完するため、カナダのトルドー首相と農産物の生産拡大について議論したことを明らかにした。
ロシアとウクライナはともに小麦の主要な輸出国だ。
2020年のロシアの小麦輸出量の世界の輸出に占めるシェアは19%で世界1位、ウクライナは9%で世界6位だ。両国の小麦輸出の世界シェアは約3割を占める。
21世紀に入り、ロシアとウクライナは小麦の主要な輸出国に成長した。中でもウクライナの躍進はめざましく、生産量は過去20年間で2倍に拡大した。
ウクライナの国土の約7割が平坦な農耕地であり、その大半が「チェルノーゼム」と呼ばれる肥沃な黒土地帯だ。「世界の黒土の3分の1がウクライナにある」と言われており、今後の伸びしろが大きいのがウクライナ農業の特徴だ。
ロシアも2014年のクリミア併合で経済制裁を科されたことを機に、エネルギー以外の外貨収入源を育てる観点から、小麦の輸出を拡大してきた。
だがロシアとウクライナの小麦の輸出港が集中する黒海沿岸で戦闘が激化したため、世界の小麦市場は大混乱している。ウクライナからの小麦の輸出は既に物理的に不可能になっている。ロシアからの小麦の輸出は続いているものの、貿易決済が困難になっていることから、今後大きく落ち込むことが指摘されている。
異常事態が発生したことで小麦の国際価格は3月7日、1ブッシェル=13.11ドルと14年ぶりに史上最高値を更新し、年初に比べ50%超の高値で推移している。
輸出先の国々に迫る危機
ロシアやウクライナの小麦の主な輸出先である中東や北アフリカ、アジアの国々では供給が途絶することへの不安が頭をもたげている。
エジプトのシシ大統領は3月22日、同国の紅海沿岸のシャルムエルシェイクでイスラエルのベネット首相、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド皇太子と会談し、食糧供給の安定などを巡り協議した。
世界第3位の小麦輸入量を誇るエジプトは、輸入小麦の8割をロシアとウクライナに依存している。エジプト政府は前日の21日、ウクライナ危機で売り込まれたエジプトポンドを米ドルに対し14%切り下げることを余儀なくされていた。通貨の切り下げは輸入する小麦価格をさらに押し上げる効果をもたらす。
1億人の人口のうち3割が貧困層と言われるエジプトでは、主食であるパンの材料である小麦の安定供給は歴代政権の最重要課題だ。シシ大統領も自ら指揮を執り、小麦価格を安定させることに躍起になっている。投機マネーの流入で小麦価格が高騰したことがきっかけで2010年から2012年にかけて「アラブの春」が起き、エジプトでも2011年に当時のムバラク大統領が失脚したことは記憶に新しい。
心配なのは小麦の国際価格がさらに上昇する可能性が高いことだ。
小麦は春に作付けがなされ、7月から8月にかけて収穫し、8月から11月にかけて輸出されるのが通常だが、戦闘が続くウクライナでは春まきの作付けは困難となっており、今年秋の収穫が落ち込むのが確実だ。国連食糧農業機関(FAO)は「ウクライナの耕作地のうち30%は、今年は作付けできないか、収穫できない」と評価している。
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