浮気を重ねたモラハラ夫、病気を機に改心も… 激変した妻からのあまりに“強烈な”復讐

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打ちのめされた場面

 倒れてから1年後、無理をしなければ仕事も思い切りやっていいと医師から許可が出て、彼はまた営業で走り回るようになった。無茶はできないが、一泊程度なら出張にも行けるようになった。

「1年ほど前、出張に出て思いがけない成果があったんです。長瀬さんに早く知らせたくて、一泊の予定を切り上げて帰ってきました。彼はその日、遅くまで残業しているということだったので知らせたかった。ところが駅近くで長瀬さんらしき人を見かけたんです。隣にいるのは妻の朱美だった。どういうことかわからなくて、身を隠しながら跡を着けたら、ふたりがホテルに入っていくのを確認してしまった。思わずスマホで写真を撮りました。妻の横顔もしっかり映っていた。彼女が首に巻いていたのは、退院したとき感謝の気持ちとして僕が贈った、ほしがっていたブランドもののストールでした」

 彼をかわいがってくれ、誰より気遣ってくれた先輩が妻と関係を持っていた。この事実に優人さんは打ちのめされた。次の瞬間、胸が苦しくなってその場に倒れ、救急車で病院に搬送された。妻とは連絡がとれないまま、一夜を病院で明かしたという。

「翌日、妻がやってきました。『ごめんなさいね』とだけ言いました。文句を言いたいところでしたが、これからは好きなように生きていいと言った手前、なにも言えなかった。妻の『好きなように』には、浮気や不倫も入っていたんでしょうか。それとも以前から長瀬さんと関係があったのか。そういえば前から、長瀬さんは『奥さんに感謝しろよ』『奥さん、大事にしてやれよ』とたびたび言っていたけど、僕は聞く耳を持たなかった。もしかしたら朱美は長瀬さんに僕のことを相談していたのかもしれない。それにしても、これが若いころからの僕の言動に対する妻の復讐なのか。もうなにも言えないし、言うつもりもない。長瀬さんはまったく変わらず僕に接してくれていますが、怖い人だなと思います」

 妻が性的に未熟で「つまらなかった」ため、子どもができてから優人さんはめったに妻を誘わなかった。甘いムードを作ろうと努力したこともない。その間、もしかしたら妻は浮気を重ねていたのかもしれないし、長瀬さんとつきあうことで快感を得ることができるようになったのかもしれない。

「なにがあっても僕はもはや体に爆弾を抱えているようなもの。思い切った行動には出られない。今は仕事ができればそれでいいと思っています」

 ふうっと大きなため息をついて、彼は続けた。

「年をとったり病気をしたりすると、できることがどんどん少なくなっていく。可能性が閉じられていくのが老いるということなんだと痛感しています。妻はまだ若いし、一緒にいてくれるだけでよしとするしかないのかもしれません。情けないし悔しいし、ときどき妻にも長瀬さんにも、いったいどういうことなんだと怒鳴りたくなりますが、そうしたところで何かが変わるわけでもないと思ってしまう。達観の境地といえば聞こえはいいけど、なにもかも諦めてしまえば気持ちは楽になるのかなとも感じています」

 せめて仕事だけはちゃんとやりたい。今は仕事だけが生きがいで、生きる支えと言ってもいいくらい。優人さんはそう言って、ふっと笑った。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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