「会話が脱線」…相手を不愉快にさせずに軌道修正するには? 日テレ藤井アナが会話の最初に行う「あること」
打ち合わせや会話中に話が脱線した時、どう軌道修正したらよいか悩みます。25年以上、スポーツや報道の現場で取材をしてきた日本テレビの藤井貴彦アナウンサーは「会話の最初が肝心」といいます。著書『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』から紹介します。
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トークのパス回しの中で
会話の脱線ってとても楽しいですよね。みんな到着すべき目的地を知っているのに、わざと寄り道をするわけですから。
私はこの寄り道が大好きで、普段から会話の脱線を楽しんでいます。当然、後輩からは面倒なおじさん扱いを受けるのですが、私たちアナウンサーにとってこの脱線はトーク力を磨くうえでとても大切な機会なのです。
アナウンス部の中でも、先輩たちが会話をしている「トークのパス回し」の輪に、一人の若手が勇気を出して入ってくることがあります。しかし、先輩たちはスムーズに会話を続けて、笑いまでとるので、若手はなかなかパス回しに加われません。ある若手は先輩たちの会話をスペインの強豪チームに例えて「バルセロナのパス回し」と表現しました。おしゃべりメッシたちからボールを奪うには相当な訓練が必要なのです。ただ、必死に食らいついて1年もすれば何とかパス回しに参加できるようになります。先輩は意地悪をして高速パス回しをしているのではなく、このパス回しのスピードに慣れておけば、実際の本番でも十分に会話ができるよと教えているのです。
なお、このパス回しに後輩が参加してきた場合はその勇気をたたえ、さらに高速のパス回しをプレゼントするので、後輩としてはたまったものではありません。
スタート時点で「ルールを決める」がポイント
さて、話は見事に脱線しましたが、ではスムーズに本題に戻すにはどうしたらいいのでしょうか。ずばり、会話のスタート時にルールを決めておくことです。
会話が始まる前に今日の本題を確認し、「今日は、これを目的にしていますので皆さんご協力ください」と伝えるのです。脱線した時にも「では本題に戻りましょう」と言えば、みんなが再び姿勢を正してくれます。こうすれば脱線の指摘もしやすくなりますし、指摘された方も「あー、そうだった!」と笑いすら起きるでしょう。
また、話の脱線が嫌いで、時間の無駄だと思っている人も必ずいます。そんな人にとってもこのルールがあれば、指摘もしやすくなり「なんだこの会議、無駄だな」という隠れ不満のリスクを下げられます。
「脱線から戻りましょう」と言いやすい環境を整えておくこと、これが大切です。
「ルール作り」は、こんな時にも役立つ
職場でのコミュニケーションや後輩へのアドバイスにおいて「ルール作り」は、とても大切です。
例えば私は、番組に新しく加入してきた後輩に対してこんなふうに伝えています。
「これから厳しいアドバイスをするかもしれないけれど、一緒に仕事ができる時間はそれほど長くない。あなたの成長のために言えることは言うので、このやり方が苦手だったら遠慮なく言ってほしい」
これがルール作りです。また「苦手だったら遠慮なく言ってほしい」という決まりを設定しておくことも大切です。もし、相手がこのルールを理解してくれたなら、その後のメッセージは伝わりやすくなります。
アフターケアであらためてルールを共有
一方、日々のニュースにおいて時間ぎりぎりでアドバイスをしなければならない場合は気を使うことができません。そんな時は「時間がないので用件だけ」と特例を作って、オブラートなしの提案をします。そして放送終了後に、「今後も時間のない時はこうさせてもらいたい」とルール作りを提案します。こうすれば、伝える方も受け取るほうも、いざという時にそのまま本題に入ることができるのです。
さらに一歩踏み込んだ工夫は「ゴール作り」
また、ちょっとした「ゴール作り」をしておくことも効果があります。先に使ったエピソードの「一緒に仕事ができる時間は長くない」と伝えた部分です。厳しいアドバイスは永遠に続くわけではないから聞いてくれというわけです。
学生の頃の私は、永遠に走り続けるサッカー部の練習が苦手でした。このダッシュ練習はいつまで続くのか。ルールやゴールのない中での行動はつらいものです。
例えば「山手線1周分ダッシュせよ」と言ってくれた方が、同じ距離を走るとしても心持ちが違います。「次は神田か!」などと言って、自分たちで小さなゴールを作りながら完遂を目指すこともできるでしょう。
指導やアドバイスは、相手にとって嫌なことを言う場合が多くあります。ルールやゴールを作ることができれば、伝わり方も大きく変わります。これも、メッセージが伝わる仕組みの一つだと考えています。
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※『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』より一部を抜粋して構成。
藤井貴彦(ふじいたかひこ)
1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。新型コロナウイルス報道では、視聴者に寄り添った呼びかけを続けて注目された。