投資家無視の「東証改編」、上場企業の意向で看板を掛け変えただけのお粗末
東京証券取引所が長年の懸案だった市場再編を行う。従来の「東証1部」「東証2部」「東証マザーズ」「JASDAQ」が、4月4日から「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」になる。再編の狙いは、国際的な地位低下が続いている東証の失地回復のため。平たく言えば、かつてニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界三大市場と言われた時代に何とか戻ろうということなのだが……。
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7年で13兆円近くの売り越し
東証を長年取材してきたベテラン証券記者が解説する。
「いや結局、改革は掛け声倒れに終わりそうです。2185社ある東証1部上場企業の85%に当たる1841社が『プライム市場』に横滑りします。世界の投資家に売買されるグローバルな優良市場の創設を目指したものの、結局、東証1部の看板を掛け替えただけになりました。この程度で世界から投資家を呼び込めるようになると東証は本気で考えているのでしょうか」
最近は海外投資家の日本株を見る目は冷たいという。
「2013年に海外投資家は日本株を15兆円買い越しました。第2次安倍晋三内閣が打ち出した『アベノミクス』で、日本が変わるのではないかという期待感が海外投資家の間で高まったのが主因ですが、同じ年に東京証券取引所と大阪証券取引所の統合が発表されたことも大きかった。東京市場がグローバル市場として利便性が高まり、日本株は投資対象から外せないと海外の機関投資家に思わせたのです。
2014年も海外投資家は8500億円買い越しましたが、2015年以降は鳴かず飛ばず。それどころか、2015年から2021年までは逆に、累計で13兆円近くを売り越しています。これは海外投資家が日本株に関心を失い、彼らの目から『東京』が消えつつあるということです。今回の市場再編を起死回生の一打にできたはずなんですが残念です」(同)
「上場企業」が顧客と勘違い
では、なぜ抜本的な改革ができなかったのか。外資系証券会社のアナリストが語る。
「すでに上場している企業の意向・要望を聞きすぎましたね。証券取引所の本来の顧客は株を売買してくれる投資家で、市場改革は本来、投資家にとって魅力的か、売買がしやすいかなど投資家目線で考えるべきです。ところが、東証の幹部は上場賦課金を払ってくれる『上場企業』が顧客だと勘違いしています。直接会話を交わすのは上場企業の経営者たちが多いですし、改革の時に意見を言ってくるのも上場企業側か、その意向を受けた証券会社の担当者なので、目の前にいる人の意向がより濃く反映される区分変更になったのです」
実際、2019年には市場区分の制度設計に参画していた野村証券グループの社員が企業に情報を漏らしたとして大問題になり、野村に業務改善命令が出された。それほどまでに、上場企業にとって市場区分の変更は重大事だったのだ。アナリストが続ける。
「投資信託などの投資商品の多くや、年金基金などの機関投資家の投資先はほとんど東証1部に限られています。またTOPIXなど指数連動のファンドも多いので、TOPIXに組み込まれる東証1部銘柄は、自動的に株が買われることになります。つまり、東証1部から外れると、こうした機関投資家がその銘柄を売る可能性が大きいため、上場企業は何としても東証1部と同格になるだろう『プライム市場』に残ろうとしました。
本来はグローバルな機関投資家が注目するような銘柄だけ集めたプライム市場ができれば、東証の新しい看板になったはずですが、上場企業側の論理で、我も我もとプライム市場に殺到することになり、東証側もそれに配慮せざるを得なかったというわけです」
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