元陸上幕僚長が分析する中国の「台湾侵攻」シナリオ 尖閣諸島に中国の民間人が上陸してくる可能性

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武装警察隊などの設置が急務

 一方で最も厄介なのは、中国の民間人が上陸して生活圏を作ってしまうケースです。これには武装した警官が対応することになりますが、民間人相手に無理はできず、逮捕したのちいったん放逐するしかない。付言すれば、もし中国の民間人が圧倒的多数である場合には、反対に日本の警官が逮捕されて放逐されてしまうかもしれません。

 相手はこの手の挑発を何回も繰り返すでしょうから、我々は当面、施政権継続のための努力を続けるしかありません。一例として、かつて米軍が使っていた久場島や大正島の射爆撃場を米軍と一緒に再び稼働させ、また船泊まりを整備するなどの示威活動が重要になってきます。“そんなことをされたら日中関係が壊れる”と、外務省は反対するかもしれませんが、この問題はじっくりと国会で議論し、国民に説明すべき事案だと思います。

 ともあれ、先々の有事に備えるに越したことはありません。兵力でいえば、武装警察隊や武装海上保安隊の設置が急務です。中国には武装陸海警察部隊が150万人、民兵が800万人いるとされ、人口比で日本がおよそ10分の1だとしても、海保も含めて15万人の保安警察隊、それから地元に密着した80万人の民兵が求められるところです。後者については、現在の消防団員数がおよそ80万人なので、これを転用するのも一つの手でしょう。またミサイル潜水艦の建造とともに、弾頭の保管場所については別途検討するとして、地上発射のミサイル装備や核・通常弾併用の米軍ミサイルの国内設置なども実行する必要があります。

 そうした配備を伴わずに「敵基地攻撃能力」を議論したところで、いざ有事となれば間に合いません。

冨澤 暉(とみざわひかる)
元陸上幕僚長。1938年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。第1師団長、北部方面総監などを経て第24代陸上幕僚長に。95年退官。著書に『逆説の軍事論』『軍事のリアル』

週刊新潮 2022年3月24日号掲載

特別読物「ウクライナ戦争で現実味 専門家が分析 どう出る!? 中国の『台湾侵攻』」より

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