元陸上幕僚長が分析する中国の「台湾侵攻」シナリオ 尖閣諸島に中国の民間人が上陸してくる可能性
“取ったり取られたり”
台湾のみならず日本にとっても、中国が脅威であることに変わりはありません。陸自の「システム防護隊」(現「サイバー防護隊」)で中国やロシアなどからのサイバー攻撃を監視する任務に就いていたOBに聞くと、
「サイバー攻撃はすでに戦争です。専守防衛などあり得ません」
と言う。鉄道・銀行・通信などが軒並み“麻痺”してしまうのですから、サイバーこそ叩かなければ無意味だというのです。
その上で、覇権主義をかざす中国が尖閣諸島をどうするつもりなのかを読み解いてみますと、人民解放軍の上陸はもちろんあり得ますが、その場合は島の奪い合いが「イタチごっこ」のように続く状況となるでしょう。というのも、島での戦いは制海権とともに制空権が重要となってきます。尖閣諸島は石垣島から170キロほど、沖縄本島からは400キロ以上離れている。中国本土からも約330キロの距離だから、さほど差はありません。
となると、ある時間帯に集中して攻め込めば、中国側も日本側も一時的に制空権を奪うことは可能です。あわせて、そのタイミングで陸兵を上陸させることもできる。
昔の制空権とは、常にその地域に他国の飛行機が入れない状態を指しましたが、現在は空中給油機もあり、必ずしもその場所を押さえたら敵が飛んでこないということにはなりません。そのため、最近では制空権の代わりに「航空優勢」という言葉を用います。「航空優勢」をとった時間帯には味方が上陸できますが、敵がこれを保っている間は敵が上陸できる。つまり戦力を集中すれば、どちらも局地的かつ一時的に「航空優勢」を奪うことができ、陸兵の上陸も可能。ただし“取ったり取られたり”が延々と続くことになるのです。
“上陸はできるが勝者はいない”
わが国の安全保障の指針を示した「防衛計画の大綱」にはかつて、離島の防衛について“離島が侵略された時には直ちに反撃してこれを奪回し確保する”などと書かれており、驚いたのを覚えています。奪回はいいとして、確保など至難の業。平地もない山のような島々を、数日間で要塞化するのは不可能だからです。
かりに魚釣島に日の丸を掲げれば、施政権の示威としては非常に効果的で、後々裁判になった際にも有利です。監視兵が常駐するようになればなお良いでしょう。ただ、近づいてくる敵に発砲するにせよ、それは施政権の示威にすぎず、結局は現代の制海・制空権の特質からしても“上陸はできるが勝者はいない”となってしまう。そこは中国も分かっているからこそ、当面は「イタチごっこ」のために無理押しはしてこないだろうとみています。
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