元陸上幕僚長が分析する中国の「台湾侵攻」シナリオ 尖閣諸島に中国の民間人が上陸してくる可能性
台湾は他国に集団的自衛権の行使を要請できない
これに先立ち第3次安倍内閣は2015年、念願の平和安全法制を成立させています。あるいは安倍さんは、これによって日米台の間で集団的自衛権の行使ができるようになったと誤解しているのではないでしょうか。安倍政権は“限定的な集団的自衛権行使はできる”としていましたが、“限定”の部分が明確ではない。日本が直接に侵攻されていなくても、例えば戦地から大量の避難民が逃げ込んでくるなど中国の軍事行動によって日本の自衛に多大な影響を与えるのであれば、それは日本有事であるとの議論もありますが、いずれにせよ米国が同意するかどうかです。
さらに言えば、台湾は国連への加盟が認められていないため、他国に集団的自衛権の行使を要請できません。国連憲章51条には、集団的自衛権の発動について「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には」とあります。つまり要請する国は、国連加盟国でなければならない。従って、もし台湾から要請があった際に米軍が出動すれば、それは集団的自衛権行使とは認められず、「中国の一部に侵略した」と見なされてしまいます。
「平和の破壊者」と認定すれば…
ただし、その自衛行動とは別に、台湾に武力行使する中国を「平和の破壊者」と認めこれを制裁する「集団安全保障措置」としての軍事制裁は認められます。むろん経済制裁が先に実行され、それでもなお不充分という前提のもとではありますが、これは国連安保理が主導し、国連軍として行動するのが原則。実際には、多くの場合は国連決議に基づく多国籍軍、あるいは決議に基づかないけれども米国など安保理常任理事国の一部が関わっている形の「有志連合軍」の名で実施されてきました。最近は米国主体の有志連合軍だけではなく、「パートナーシップ安全保障」として地域や国益に応じた数カ国の小規模な連合軍を作るケースも増えています。
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