元陸上幕僚長が分析する中国の「台湾侵攻」シナリオ 尖閣諸島に中国の民間人が上陸してくる可能性

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サイバー攻撃への防衛策が何よりも重要

 かつてのように軍隊同士が衝突して前へ進んでいくのではなく、電子機器の機能を壊し、国民生活や国の組織といった「神経」を潰してしまう戦法。現在のところ米中は、核兵器を用いた“決戦”に踏み込む意思は全くないとみられますが、その点を念頭に置きながら、台湾も日本もサイバーを含むテロ・ゲリラ攻撃への防衛策を練ることが何よりも重要だと思います。

 とはいえ金門島や澎湖島、そして南沙諸島の北部にあり、高雄市に属する大平島あたりには、威力偵察的な中国からの攻撃があり得ます。もっとも、それだけでは台湾側も本格的な戦闘態勢をとらないでしょうし、そもそも米国がどのようなアクションに出るかが不明。日本としては、米国が曖昧な態度をとり続けている間に張り切って先走るのは、極めて危険です。

「台湾有事は日本有事」と言えるのか

 昨年末、安倍元首相が台湾のシンポジウムで「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事だ」と発言しました。ですが、この論理は厳密には成り立ちません。

 日米安全保障条約の5条は日本有事について触れており、

〈各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する〉

 とあります。米国が集団的自衛権に基づいて支援するとの趣旨であり、米国が攻められた時に日本が支援するとは書かれていない。「片務条約」ではとの問題点が指摘されているのはご存知かと思います。

 ここでもう一つ大事なのが6条です。米国が日本に陸海空軍の施設(基地)を置く目的について、こう記されているのです。

〈日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため〉

 日本“並びに”極東の安全のためだと謳われているのに、台湾で起こったことを日本有事の問題に一本化するのは、やはり無理があります。そういえばベトナム戦争の時、米軍が日本の基地から戦地に赴いたことで「6条の極東とはどの範囲を指すのか」と議論になったことがあり、「ベトナムまで行くのはおかしい」など、いろいろな意見が出たものでした。安倍さんの発言の後、BSのニュース番組で元外務審議官の田中均さんが、

〈「中国が台湾を攻撃したら日本も戦う」という根拠は日本国の法律にない〉

 などと批判していましたが、私もこの点は同じで、米国にも中国にも通らないでしょう。

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