元陸上幕僚長が分析する中国の「台湾侵攻」シナリオ 尖閣諸島に中国の民間人が上陸してくる可能性

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「今すぐ戦火を交えることはない」

 今般のウクライナ侵攻を目の当たりにした中国が、好機到来とばかりに触発され、直ちに台湾に軍事行動をとるとは思えません。その理由はこれから述べるとして、現在の趨勢が続くと軍事バランスの悪化を招いてしまうのは間違いなく、それを防ぐべく軍備増強に関する議論が目下、なされているわけです。

 そもそも地形的に、台湾海峡は130~260キロと幅が広く、また水深も浅い。その上、東シナ海と南シナ海の間に位置しているため潮の流れも速く、気象も不順で霧や雲がかかることもしばしばです。さらに中国に面した台湾の西側の海岸は、大軍の上陸には適していません。

 中国の海兵隊は現在、4万人ほど。77年前、米軍が当初28万人の陸兵を沖縄に上陸させたことを考えれば、規模として中国軍の台湾侵攻は、後続の陸軍とあわせて30万人ほどになるでしょうか。ところが、それだけの人員と補給品を運んで揚陸する船舶・航空機が足りない。これらを勘案すると、習近平体制がよほど不安定になり、台湾を攻撃しなければクビが繋がらないといった状況にでもならなければ、今すぐ戦火を交えることはないでしょう。それが大筋の見方です。

敵の内部分裂を誘う

 もともと中国には「好鉄不打釘、好人不当兵」という言葉があります。“よい鉄は釘にはならず、よい人は兵にならない”という意味で、漢民族は戦争や兵士を見下してきたところがあるのですが、その一方で「押さば引け、引かば押せ」という柔道由来の言い回しもある。これは毛沢東が愛用した言葉で、実際に武力一辺倒ではなく、中国の戦術には近年、頭脳を使った柔軟さが見てとれます。

 考えられるシナリオとしては、フェイクニュースを流すなどサイバーを含むテロ・ゲリラ戦で台湾を攪乱、自滅させ、息の長い作戦で相手方に友好グループを作り、敵の内部分裂を誘う工作を仕掛ける。そして、一定の成果を上げたのち先制攻撃の機をうかがいます。これが中国の常套手段であり、すでに工作員は潜入しているかもしれません。

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