元陸上幕僚長が分析する中国の「台湾侵攻」シナリオ 尖閣諸島に中国の民間人が上陸してくる可能性
ロシアがウクライナに攻め入ったことで、中国による台湾侵攻の危機が、あらためて取り沙汰されている。専横極まりない彼の国が動けば、むろん対岸の火事では済まされない。その時、米国は、さらに尖閣諸島は……。来るべき事態を、元陸幕長の冨澤暉氏が分析する。
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中国が台湾に攻め込む時、その戦術的な基礎となるものは「封」「打」「登」といわれています。それぞれ海軍による海上封鎖、ロケット軍・空軍による経空攻撃、そして海兵隊・陸軍による上陸作戦を指すものです。両国間での大きな危機はこれまで、3度ありました。
まず1954年から翌年にかけての「第1次台湾海峡危機」。台湾はこの時、浙江省南部の島嶼などを奪われています。次に58年、第2次危機では中国の人民解放軍が台湾の金門島を砲撃しましたが、台湾側は守り抜きました。
そして3度目は95年から翌年にかけてです。96年3月、初めての総統直接選挙で李登輝が当選したのですが、これに際し中国は、台湾独立の気運が高まるのを恐れ、ミサイル発射実験とあわせて大規模な軍事演習を行いました。この時は、米国が対抗して複数の航空母艦を近海まで出動させ、中国が退いてひとまず事態は収まりました。
また、これとは別に62年には、毛沢東が内政で失敗して国力が弱まったことで、蒋介石が反攻の好機と捉え、大陸へ上陸しようと試みました。この「国光計画」は結局、米国から反対されて未遂に終わっています。
ブレーキをかけつつコントロールする米軍
こうした経緯ののち、現在の中国は軍事力が飛躍的に拡張しました。さきごろ公表された2022年の国防予算は約26兆3千億円と、台湾のおよそ14倍。それもあってこの2、3年“第4次台湾海峡危機が近いのでは”などとささやかれてきました。とりわけ、対台湾ミサイルの質・量ともに向上し、航空戦力においては「遼寧」をはじめ航空母艦2隻が出現、今後も増やされる見通しであることが大きい。これに対して台湾には、米国が台湾関係法に基づきF16やパトリオットミサイルなどを提供してはいますが、前出の「国光計画」のような事態になれば全面戦争の恐れもある。米国としては台湾への軍事支援は行いつつも、常にブレーキをかけながらコントロールしている状態なのです。
中国に脅しはかけるけれども台湾のために本気で戦うつもりはない。中台問題に対するこうした米国の姿勢は従来「曖昧戦略」とも呼ばれてきました。
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