悪知恵と陰謀を巡らす文在寅政権 新旧大統領会談でこっそりお願いしたいこと

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韓国は自由民主主義国家ではない

 一度青瓦台に入り、その後で移転したらどうかとの意見もあるが、尹錫悦氏は青瓦台には一度入ったら二度と移転できない魔力がある、と警戒する。周辺が、いろんな理屈をこねて大統領府移転を実現させないだろう。尹氏の信念は固い。「青瓦台に入ったら、帝王的大統領に染まる」と語る。

 彼は、文在寅政権を自由民主主義でなく独裁体制だ、と批判してきた。発展途上国の多くは、大統領制選挙を実施し表面上は民主主義のように見えるが、多くは大統領が全権を握る「独裁制」になっている。形式上の民主主義を利用した、事実上の独裁体制だ。新大統領はこの危険を指摘し、文在寅大統領と全面対決した。韓国は、日本に対して「反日全体主義政権」であった。

 歴代政権の不正腐敗を暴いた尹錫悦氏は、選挙で「韓国を自由民主主義国家にする」と訴えた。その信念の象徴が、青瓦台の移転だ。韓国の大統領は、アメリカの大統領よりも絶大な権限を持つ。議会や司法は、大統領の「しもべ」と揶揄されてきた。多くの開発途上国の議会は、大統領の意向に逆らえないから、民主的的独裁制に堕落する。

 米国の政治は、大統領と議会、司法の三権が平等の権限を有しており、この三つの機関を総称して「政府」と呼ぶ、日本のように行政機関を「政府」とは呼ばない。大統領府は「バイデン政府」ではなく「バイデン行政府」と報道される。

眠れない夜の大統領と高官たち

 実は、文在寅大統領は3月21日に国家安全保障会議(NSC)を、青瓦台で開いた。この会議後に、新大統領の青瓦台移転計画反対を公式に発表した。理由は、安全保障の空白が生まれる危険があり、予算も予備費では捻出できない、との内容だった。だが、本当の理由は新政権揺さぶりと尹錫悦新大統領との秘密会談だ。

 政治権力は、発足直後は高支持率を背景に一年間は強力な権力を行使する。韓国では、この傾向が特に見られる。これを阻止するためには、政権発足当初にスキャンダルや失政を攻撃する必要がある。韓国政治は「権力は恐ろしくない」と思われたら、国民は従わない。

 朴槿恵政権は、政権発足直後に父親の朴正煕政権の学生弾圧が明らかにされた。反政府運度の学生が殺害され、拷問を受けた事実が報道された。これを受け、朴槿恵大統領は謝罪に追い込まれ、政権の権威は失墜した。朴槿恵大統領は、「親日派」と攻撃され日韓関係改善に取り組めなかった。

 その前の李明博大統領は、政権出発直後にいわゆるBSE(狂牛病)肉の輸入問題で攻撃され、大規模デモが連日続き権力が弱体化した。

 この左派の成功体験から、文在寅政権も政権発足前の尹錫悦大統領を攻撃し、当初から政権弱体化を図ろうとしている。大統領官邸の移転に反対する署名が20万人に達したと報じられるが、左派系の団体や労働組合を動員したもので、重複署名もあるだろう。だが、大きな反対デモは起きていない。

 文在寅大統領は、こうした反対の動きを示し、尹錫悦氏との二人だけの秘密会談を実現しようとしている。これに応じたら、新政権は開始直後から弱体化すると、尹氏も理解しているから、激しい攻防が展開された。

 韓国の多くの新聞は、文在寅政権の経済政策や土地政策の失敗を指摘しだしており、大統領選挙前のように文在寅政権に配慮しなくなった。青瓦台の移転にも、好意的な社説を掲げている。新政権発足前に、韓国銀行総裁などの人事を断行しようとする文在寅政権を批判し、新しい大統領に任せるべきだと指摘する。

 追い詰められた文在寅大統領と身の不正を心配する高官は、不正腐敗摘発と逮捕拘束の悪夢に眠れない夜をおくる。尹錫悦新大統領を傷つけようと必死だ。

重村智計(しげむら・としみつ)
1945年生まれ。早稲田大学卒、毎日新聞社にてソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員を歴任。拓殖大学、早稲田大学教授を経て、現在、早稲田大学名誉教授。朝鮮報道と研究の第一人者で、日本の朝鮮半島報道を変えた。著書に『外交敗北』(講談社)、『日朝韓、「虚言と幻想の帝国の解放」』(秀和システム)、『絶望の文在寅、孤独の金正恩』(ワニブックPLUS)など多数。

デイリー新潮編集部

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