ウクライナ侵攻でもロシアは国際的に孤立していない…新経済秩序が構築される可能性も
ロシアがウクライナに侵攻して1ヶ月が経ち、西側諸国では「ロシアは孤立に追い込まれている」との見方が常識になりつつある。非常に厳しい経済制裁を科されたことでロシアは大打撃を被り、国際社会から排除されつつあるのはたしかだが、西側諸国の対応に冷ややかな視線を送っている国々が少なくない点も見逃せない。
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3月2日に国連で行われたロシア軍の即時撤退を求める決議では、国連加盟193カ国のうち141カ国が賛成したのに対し、反対はロシアを含む5カ国、棄権したのは35カ国だった。国別で見れば賛成が圧倒的多数だが、人口の総数で比較すると世界の人口(77億人)のうち53%が棄権などに回っていたことがわかる。
アフリカや中東で西側諸国のダブルスタンダードへの不満がこれまでになく強まっていることも気がかりだ。
前述の国連決議を棄権した東アフリカ・ウガンダのムセベニ大統領は、ウクライナを巡る西側諸国とロシアの対立について「アフリカは距離を置く」と表明した(3月18日付日本経済新聞)。歴史的にアフリカを搾取してきた西側諸国がウクライナだけに肩入れするのは「ダブルスタンダード」だというのがその理由だ。
同じく国連決議を棄権した南アフリカのラマポーザ大統領も17日、ウクライナにおける戦争についてNATOを非難し、「ロシア非難の呼びかけに抵抗する」と述べた。
アフリカでは難民や人道危機における国際社会の対応が「人種差別的」だと不満の声も上がっているが、中東でも「西側諸国のウクライナへの対応が中東に向けられた態度とあまりにも違う」との不信感が強まっている(3月8日付ニューズウィーク)。
欧米諸国は避難するウクライナ人に対して門戸を喜んで開放しているが、かつてシリアからの難民が流入した際、どれだけ冷たい態度をとったことか。中東地域で「白人優先主義だ」との非難は高まるばかりだ。
「外国への侵攻」という意味では米軍のイラク侵攻も同じだが、「国際社会は米国に制裁を科したのか」、「侵攻された側を支援したのか」との怒りもこみ上がってくる。
アフガニスタンからの米軍の撤退ぶりが与えた影響も小さくない。「米国はいざというときに頼りにならない」との認識を深めた中東諸国には「米国の同盟国であることは利益よりも不利益の方が大きいのではないか」との懐疑が芽生えつつあるという。
このように、「ロシアが国際的に孤立している」とする西側諸国の認識は、必ずしも国際社会全体の実態を表しているものではない。
「第2次冷戦の幕開け」
冷戦終結以降、世界は経済優位の時代が長く続いたが、現下の世界情勢は「経済安定」という政策の優先順位が著しく低下している感が否めない。西側諸国が実施している経済制裁は米軍の戦略を研究してきたランド研究所が2019年に立案したものをベースにしており、破壊力は極めて強力だが、副作用も甚大だ。
軍事侵攻とこれに対する苛烈な経済制裁、経済の安定を優先する指導者ならいずれも回避すべき選択肢だが、対立するロシア、西側諸国双方が「経済よりも大事なものがあり、それを守る戦いを続けるべきだ」との姿勢を崩そうとしていない。
「世界の相互依存関係の深化が主要国の衝突を抑止する」という期待は歴史上何度も裏切られてきたが、今回も同様の事態になってしまうのだろうか。
米国の国際政治学者イアン・ブレマー氏はロシアのウクライナ侵攻を「第2次冷戦の幕開け」と位置づけているが、新冷戦の主戦場は経済であり、どちらが先に消耗するかの持久戦の様相を呈してきている。
経済協力開発機構(OECD)は17日「ウクライナ危機は今年の世界の経済成長率を1%以上押し下げ、インフレ率を2.5%上昇させる」と予測した。
国際通貨基金(IMF)も19日「ロシアのウクライナ侵攻は成長鈍化とインフレ高進という形で世界経済全体に影響を与える」とした上で「長期的には世界経済の秩序を根本的に変える可能性がある」との見方を示した。
冷戦終結後、大量の安い労働力を有する中国と大量の天然資源を持つロシアが世界経済に入ってきたことで世界経済のグローバル化は急速に進んだが、今後はサプライチェーンが分断化される世界を前提とした再調整が不可避の情勢だ。ブロック化する経済がもたらすインフレ圧力が今後長く続き、現在の世界経済システム自体が大きく変容する事態も想定しておかなければならない。
現在のロシアは旧ソ連のように政治的価値観を共有する同盟国に乏しいが、西側諸国の対応に反発する国々がロシアとの関係を強化する動きに出る可能性は排除できない。
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