ロシアが化学兵器を使用するならサリン プーチンと「731部隊」の不気味過ぎる共通点も
化学兵器の欠点
「科学的な立証には時間がかかります。イラク軍が化学兵器を使用したのは1988年でしたが、それが明るみになり、信憑性が証明されるまで時間がかかりました。そのため一時期は、1994年に起きた松本サリン事件が『世界で初めてサリンによって人的被害が出たケース』と考えられていました」(同・常石氏)
果たしてロシア軍はサリンを保有しているのか、隠し持っているのならウクライナで使用するつもりなのか──?
「化学兵器を使用した軍隊は、内部で士気が下がるという調査結果があります。軍人の多くは『化学兵器は世界的に禁じられている』、『非人道的な戦術』と理解しているのです。まして前線の兵士にとっては、自分たちも被害を受ける可能性があります。気象予報の精度は上がっていますが、少しでも風向きが変われば、最悪の場合、自分たちが浴びる可能性があるのです」(同・常石氏)
そもそもウクライナに侵攻したロシア軍は、兵士の士気が低いことに頭を抱えているという。もし化学兵器を使えば、更に下がることになる。こうなると、ウラジーミル・プーチン大統領(69)でも化学兵器の使用を躊躇するかもしれない。
だが一方で、プーチン大統領は最近、ウクライナ軍が化学兵器の使用を「準備している」とも語っている。
例えば3月16日の政府会議で、「ウクライナには米国の支援の下でコロナウイルスや炭疽(たんそ)菌、コレラなどの軍事利用に関する研究施設があった」と発言した(註)。常石氏は、これが非常に気になるという。
731部隊の亡霊
「第二次世界大戦中、関東軍防疫給水部本部、通称731部隊と呼ばれた研究機関がありました。陸軍軍医中将だった石井四郎(1892~1959)が指揮を執り、生物・化学兵器の研究も行っていました。石井は自分の研究を正当化するため、『放っておけば、先にソ連や中国が生物・化学兵器を製造して使用する。我々は自衛のために生物・化学兵器の研究を行う』などと主張しました」(同・常石氏)
常石氏は、プーチンと石井の“正当化ロジック”には共通点があると指摘する。「相手が使う可能性があるから我々も使う」という理屈だ。ロシア側の主張を初めて知った際、「731部隊の亡霊が出てきた」と感じたという。
「この不気味な共通点は、何に根ざすのかと考えました。化学兵器の使用を無理矢理に正当化しようとすると、『敵が使う可能性がある』という理屈しか浮かばないのかもしれません。いずれにしても、こうした共通点を目の当たりにすると、プーチンは本気で化学兵器を使うつもりなのかと不安になってしまいます」
更に常石氏は「ウクライナが化学兵器を準備している」と主張したタイミングについても、違和感を覚えたという。
「ロシアとウクライナは隣国であり、ソ連時代から密接な関係を構築していました。もし本当にウクライナが化学兵器を所有しており、それをロシアが事実として掴んでいたのなら、それこそ侵攻前に発表し、軍隊を送る大義名分にすることもできたはずです」
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