ロシアが化学兵器を使用するならサリン プーチンと「731部隊」の不気味過ぎる共通点も

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サリンとオウム真理教

 1991年にソ連が崩壊した際は、生物・化学兵器の専門家を欧米諸国が協力して高給で迎え入れたという。

「独裁国家や他国の侵略を考えている“危険な国家”ほど、生物・化学兵器のノウハウを欲しがるものです。テロ支援国家が、サリンやVXガス、マスタードガスといった化学兵器の製造を開始したら世界のリスクになります。ロシアから“頭脳流出”を防ぐための措置だったのです」(同・常石氏)

 ちなみにオウム真理教がサリンの製造に成功したのは、ロシアでの布教活動が成功したことと関係があったのではと指摘した報道もあった。

 だが、常石氏は否定的な見解を持っているという。

「オウム真理教は『自分たちが必要とするものは自分たちで開発し製造する』という方針を貫いていました。その方針が、サリンだけ適用されなかったとは考えにくいものがあります。参考にするため、ロシアでサリンの現物を入手したことはあったのかもしれません。ただ、オウム真理教がロシアでの布教に成功したことで、例えばサリン製造のノウハウをロシア人の専門家から教えてもらったというようなことはなかったと見ています」

 1993年、世界各国は「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」に署名し、97年に発効された。

 2021年現在、締結国は190カ国を越える。未締結の国家は、北朝鮮、エジプト、南スーダンといった国々だ。

“藪の中”のシリア内戦

 締結国のロシアは、いかなる化学兵器も保有していないことにはなっている。だが、それを信じている関係者は少ないようだ。

 先に紹介した中日スポーツの記事は、「ロシア、次の一手は残虐非道のサリン散布か、西側政府高官『使用する可能性は大きい』2010年代にシリアで“実績”あり」と、シリアの内戦でロシア軍がサリンを使用したという内容の見出しだ。

「見出しの元となったのは、アメリカの雑誌社が配信した電子版の記事です。元国防次官補を取材し、『ロシアはシリアで化学兵器を使用し、子供を含む1400人を死亡させたことがある』とコメントしたという内容なのですが、これを中日スポーツは翻訳して紹介しています」(前出の記者)

 常石氏は「ロシアがシリアで化学兵器を使用したかについては、明白な証拠は出ていません」と語る。

「科学的に証明できるファクトはなく、状況証拠止まりと言うべきでしょう」

 イラン・イラク戦争の末期にあたる1988年、イラク軍は自国内のクルド人自治区で、サリンやマスタードガス、VXガスなどの化学兵器を使用したことが明らかになっている。当時、同国の大統領はサダム・フセイン(1937~2006)だった。

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