「怪物スラッガー」花巻東・佐々木麟太郎、なぜセンバツで“完全沈黙”したのか

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「できなかったのは自分のセンスの無さ」

 続く2打席目以降の凡退も全て結果球(打席結果になった球)はストレートだったが、第1打席のチャンスで完全に抑え込まれたことと、何度フルスイングしても、米田の球をとらえられないことに対して、佐々木の焦りも募っていったように見えた。

「(米田は)ストレートの球速も出ていましたし、伸びがあって素晴らしい投手でした。そのボールに対して自分が遅れているというのは感じていたので、修正しようと思ったのですが、それができなかったのは自分のセンスの無さだと思います」(同)

 その後も佐々木の口からは「不甲斐ない」、「自分にはセンスがないので」という言葉がたびたび聞かれた。ここまで完膚なきまでに抑え込まれたのは、新チームになってからは一度もなく、その悔しさは相当なものがあったことは想像に難くない。

 しかしながら、センスがないバッターがここまで短期間にホームランを積み重ねることは不可能だ。今大会では快音は聞かれなかったとはいえ、フルスイングの迫力とヘッドスピードの速さは、やはり大きな可能性を感じさせるものだった。

選抜での悔しい経験が成長に

 また、プロのスカウトは、佐々木について「下級生だからまだ参考程度」と断ったうえで、以下のように話していた。

「(ボールを)高く打ち上げたいという気持ちがあるからだと思いますが、ちょっとすくい上げるようにして振りますよね。だから、どうしても体に近いところや高めの速いボールに対して、バットが出るのが遅れているように見えました。でも、あれだけ強く振れるのはやっぱり魅力ですよ。(昨年12月に両肩を手術した影響で)冬の間にあまり練習できなかったみたいですし、ここから考えて、いろいろと直していけば、もっと状態も上がってくると思いますね」

 今回の佐々木の結果を見て、2006年の夏の甲子園を思い出した野球ファンも多かったのではないだろうか。この大会では2年生ながら大阪桐蔭の4番を務めていた中田翔(巨人)が初戦で特大のアーチを放ったものの、続く2回戦では早稲田実の斎藤佑樹(元日本ハム)の内角高めのストレート攻めに3三振を喫したのだ。

 中田はその後、速いストレートへの対応力をアップさせ、2年秋の近畿大会では推定飛距離170メートルの超特大弾、そして翌年春の選抜では2回戦で2打席連続ホームランを放つなどの活躍を見せ、ドラフトの目玉としてプロ入りすることになった。

 当時の中田と比べても、佐々木のパワーは全く遜色なく、選抜での悔しい経験が成長に繋がることも十分に考えられる。大きな挫折を味わった“怪物スラッガー”が、夏にさらなる進化を遂げて、再び甲子園の舞台に戻ってくることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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