白旗状態の検察が不自然な「味噌漬け実験」を行った“本当の狙い”【袴田事件と世界一の姉】

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 袴田巖さんが48年ぶりに自由の身になった釈放から、3月27日で8年になる。再審可否を決める三者協議の進捗は、検察の抵抗でもどかしいが、「1年間も味噌に漬かっていた衣服の血痕に赤みが残るのか」について鑑定した専門家の証人尋問が決まるなど、着実に再審開始へ向けて進んでいる。この3月は別の著名な殺人冤罪事件をめぐっても動きがあった。「袴田事件と世界一の姉」第12回目。(粟野仁雄/ジャーナリスト)

「21歳」の巖さん

 3月10日は、巖さんの86歳の誕生日だった。コロナ禍で、支援者らが巖さんと姉のひで子さんが暮らす静岡県浜松市のマンションに集まって祝うことは、残念ながらできなかった。自宅を訪問したのは「見守り隊」の猪野待子隊長と撮影を担当した「袴田支援クラブ」の白井孝明さんだけ。その様子はYouTube番組『袴田チャンネル』で配信された。

 映像で見る部屋は花で美しく飾られていた。お祝いのケーキのローソクの火を吹き消した巖さんは、ひで子さんからブルーの素敵な帽子をプレゼントされた。巖さんは盛んに「21歳なんだな」「21歳だ」と言っていた。巖さんは好物の寿司を昼食に平らげ、さらにケーキをおいしそうに食べてから、外出の準備をしてマンションの下に降りた。支援者の女性から花束を渡されると、この日はいつもと違って報道陣に囲まれて市内のパトロールに元気に出て行った。

 せっかくのプレゼントの帽子をかぶらず、以前から持っていた別の帽子をかぶって出かけるのもGoing My Wayの巖さんらしい。巖さんは昔からおしゃれで、最近は靴と帽子の色を合わせてコーディネートするそう。この日の午前11時頃だったか、神戸から電話して巖さんに「86歳、おめでとうございます」と伝えた。こちらが誰かもわかっていなかったようだが、とにかく「21歳なんだな」の一辺倒だった。

 ひで子さんは、巖さんの誕生日に寄せたビデオメッセージの中で「私は戦中派ですから誕生祝なんてやったこともない。2月8日は私の誕生日でしたが、巖はわかっているのかわかっていないのか、一応は言ってみようかと思っていた。ご飯の少し前に部屋を覗いた。そしたら熨斗袋に『秀子、誕生日おめでとう』と書いていてよこしたんです(中身は1万円だった)。こんなことは89年間生きていてありませんでした。私は一人で長く暮らしてきましたから。それが支援者のみなさまのおかげでこういうことになった。巖は拘禁症とかもあるし、誕生日がどうだなんて話したこともなかった。それが、そういうこと(姉の誕生日を祝うこと)を巖ができるようになったことがすごく大きい」と喜んだ。

 ひで子さんは「今日は帽子を買ってあげたけど、巖はかぶって(パトロールに)行かなかったから私がかぶりましょう」と自らかぶってみせてほほ笑んだ。

三者協議の会見、初めての欠席

 袴田さん姉弟にとって重要なイベントが3月に相次いだ。

 3月14日、東京高裁(大善文男裁判長)で5回目の三者協議が開かれた。弁護士会館で会議中の山崎俊樹さん(「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」事務局長)と電話して、ひで子さんが新型コロナの感染を用心して三者協議に来ないことを知り驚いた。巖さんの補佐人を務めるひで子さんは、三者協議のたびに欠かさず上京していたが、協議自体には参加させてもらえず、いつも山崎さんと高裁の待合室で待たされる。そのため記者会見にひで子さんの姿がなかったことは初めてだった。体調を崩したとも聞いたので心配になって電話すると、「私は至って元気なんですけどね。周囲が行くなと言うもんだから」とかなり残念そうだった。

 会見に浜松からリモート参加したひで子さんは、音声が聞き取りにくいのか盛んに耳に手を当てていたが、女性記者に進捗具合の感想を聞かれて「もちろん進展したと思っていますよ」と答えた。巖さんの生活については「妄想状態とまともな時が半分半分ですね。今日はまともでも明日はまた妄想に戻ってしまうようです。健康面では血糖値が高かったのですが、数値は安定しています。まあ、よく食べるもんで、一体どこに入るのかと思うくらい食べるのが心配です。私も健康ですよ」などと話し、いつもの朗らかな笑顔を見せた。

 会見冒頭、西嶋勝彦弁護団長は「いつもは2人しか来ない裁判官が、初めて3人来ました。検察側の実験(後述する「味噌漬け実験」のこと)は思わしくないようで、裁判官は興味を持ったようです。検察はこれで実験を終えたいとしているが、われわれは継続することを主張し、裁判官も自分の目で見たいと言っていました」と手応えをつかんだ様子で話した。

 この日の記者会見で詳細を説明したのは、札幌弁護士会の笹森学氏。学生時代、有名な冤罪事件である「徳島ラジオ商殺し事件」で冤罪に関心を持ち弁護士になったという。北海道空知郡で起きた女性連続殺人事件や「足利事件」などで弁護活動をし、DNA鑑定にも精通している重鎮である。

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