子役・毎田暖乃の“憑依力”が圧倒的だった「妻、小学生になる。」 「お涙頂戴」にならない巧みな構造

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 10年前に亡くなった妻がある日突然、小学生になって現れる。入れ替わりではなく乗り移り系ファンタジーの「妻、小学生になる。」。

 正直、ちょっと気持ち悪い展開にならないか、子役が大人を演じる嘘臭さが鼻につかないか、やや懸念はあった。そんな底意地の悪い目線で観始めたら、まあ、びっくり。子役の毎田暖乃(まいだのの)がすごい。大人の女どころの話ではない。妻の石田ゆり子そのものに見える。口調、仕草、ゆり子やんけ! 鷹揚なまなざし、ゆるふわな姉御肌、酸いも甘いも噛み分けたであろう安定感。驚きの憑依力に心底、感服した。今期ドラマの助演女優賞、なんなら主演女優賞を授けてもいいくらいだ。

 自分が運転する車の事故で、妻を失った主人公を演じるのは堤真一。罪悪感と喪失感で、生きる気力ゼロのしょぼくれ具合。しょぼくれというか、もう、ただ息をしているだけ。同様にしょぼくれた娘を演じるのは、ナチュラルボーン伏し目がちが魅力の蒔田彩珠(まきたあじゅ)。時が止まったまま、覇気も色もない10年を過ごした父娘のもとに小学生の妻が現れ、生活が一変するという。

 もう最初っから構えちゃう。泣けるヤツだね、これ。乗り移った妻がいずれ消えて、再び深い喪失を味わうヤツね。石橋凌と原田美枝子の娘・優河が歌う主題歌「灯火」が、これまたそそるの、涙を誘うの、切ない歌声とメロディなの。これだからTBS金曜枠は侮れん。

 さて。メインは家族の喪失と再生の物語(堤に恋心を抱く森田望智(みさと)も姉を亡くしている)だが、同時に異なるテーマの物語も進行する。母娘の愛憎だ。

 ゆり子が乗り移った暖乃だが、もともとはシングルマザー・吉田羊の娘だ。羊は夫と離婚し、生活に疲弊。娘が別人格の大人になったことにすら気づかない、ネグレクト状態。さらには暴力と同等の暴言を娘に吐いてきた。人生がうまくいかないことを娘のせいにする、親としての禁句もぶつける。ひとでなしと思うが、母親になって後悔したことがある女性もゼロではないはず。全国の母親の心の闇を羊姐さんがひとり背負った形だ。

 また、ゆり子の実母(由紀さおり)も似たタイプ。自分を幸せにしてくれない人間に常に怒っている。不機嫌な母と気遣う娘の構図、身勝手な母と疎遠になった子供の心の距離も織り交ぜ、ファンタジーの必然性に説得力をもたせている。おかげで安っぽい「仲良し家族の感涙ファンタジー」に成り下がっていない。作品の構造が実に巧緻だと思った。

 忘れちゃいかん、ゆり子の弟・神木隆之介も重要。無二の不甲斐なさはもちろん、生まれ変わりの謎を追究するかもしれず、担うところは案外大きい。実は故人の姿が見える僧侶兼マスターの柳家喬太郎も、適度な温度と距離で見守る傍観者として、存在感を放つ。

 ふと思う。亡き夫が小学生になって目の前に現れても、こうはならんだろうな。はよ成仏せいと思うし、浄霊するかも。夫も生まれ変わりを謳歌しちゃって、私のもとには来ないだろうな。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年3月24日号掲載

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