〈カムカム〉虚実がはっきりしなからこそ、観る側の胸に響く…鮮明になる4つのテーマとは

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ミュージカル仕立ての意味

 4つ目のテーマは「ひなたの道」。過去の登場人物たちの言葉から、それが「自分が納得して歩ける道」と「自分の居場所となる道(場所)」だと読み解ける。

「私が守る。あなた(錠一郞)と2人でひなたの道を歩いていきたい」(るい、第59話)

「五十嵐(文四郎=本郷奏多)君が選んだ道が、きっとそれがひなたの道になるから」(錠一郞、第90話)

 稔を失ってからの安子は納得できる道、居場所となる道を死に物狂いで探した。るいは錠一郞と暮らすことが自分の納得できる道、居場所となる道と信じ、それを守ろうと懸命になった。そして今、ひなたが納得できる道、居場所となる道を見つけようと躍起になっている

「継続」して習得したものが「継承」され、それが続くと「永遠」になる。また「道」はどこまでも続き、永遠を思わせる。4つのテーマは結びつくものだった――。

 藤本作品の特色の1つが鮮明に表れたのは、なんといっても第97話。稔とNHKラジオ「英語会話」(通称「カムカム英語」)の講師・平川唯一(さだまさし)さんの幻を、ごく当たり前のように登場させた。

 視聴者側から違和感を訴える声やリアリティの欠落を指摘する意見はほとんどなかったようだ。これまで藤本さんが敷いてきた布石が効いた。

 最初の布石は第39話に敷かれた。岡山から大阪に出てきたるいの浮き立つ気持ちを表すために挿入されたミュージカル仕立ての場面である。

 この時は違和感を訴える声があった。けれど、もしも、これまで写実一辺倒で物語が進行し、いきなり稔や平川さんが現れたら、いくら終戦記念日という設定でも自然に受け止められない人が多くいたはず。

 ひなたの空想もたびたび映像化された。これも当初は疑問視する向きがあったが、繰り返されるうち、否定的な意見は消えていった。「虚」と「実」が入り混じる藤本作品の真髄が浸透した。

 第94話で算太がサンタクロース姿で見せたダンスの場面も夢とうつつが入り混じっていた。踊り終えた算太の目には生家「たちばな」の看板が映っていた。虚実がはっきりしないからこそ、観る側の胸に響いた。

 稔と平川さんが登場した際も虚実が曖昧に。近松門左衛門の「虚実皮膜論」の実践だった。藤本さんは近松の半生をモチーフにしたNHKの娯楽時代劇「ちかえもん」(2016年)を手掛けた際、虚実皮膜論についてこうセリフ化していた。

「ウソの何があきまへんのや。ウソとホンマの境目にあるものが一番おもろいんやおまへんか」(青木崇高が演じた近松の協力者・万吉)

 まさに第97話の世界観である。現実には起こり得ない稔とるいの対面を実現させたからこそ、感動は最高潮に達した。

 藤本さんは鮮やかな最終回を紡ぐ人。謎や疑問はきれいに解消する。それとは別次元であるテーマやメッセージもしっかり伝えてくる。4月8日のフィナーレまで目が離せない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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